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好きだから、殺されても構わない
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あぁ、ついにやってしまった。自分を抑えることができなくて先輩を殴ってしまった。
…完璧に嫌われたな。
それでも血で汚れている先輩は美しかった。綺麗だった。
…やっぱり僕、病気なんだな。
先輩を殴ったのは昨日のことで。
今はもう学校は終わっている。今日はまったく授業に集中できなかった。ずっと頭の中が良佐先輩のことでいっぱいで。
…本当に綺麗だった。
けれど嫌われたんだと改めて思うと悲しくなった。良佐先輩のことだけは傷つけたくなかったのに。
校門を出て、一人でトボトボ歩いていると、道の端にあの人が立っていた。
「…あ」
良佐先輩が僕を待っていた。
俺が殴ったところは赤黒くなっている。グロテスクで美しい。
「…霧明」
殴られてもいいや。どう考えたって僕が悪い。
なのに、良佐先輩は怒っているはずなのに、微笑んでいた。
「霧明、待ってたんだ。…怒ってないよ、大丈夫」
先輩は笑っている。
「……なんで、なんで?僕、先輩に酷いことしたんですよ?」
「…俺は、怒ってないよ。お前のことを嫌いになってもいないよ。ただ、理由を聞かせてくれ。お願いだ。なんで俺を無視していたのか、なんで殴ったのか、なんで綺麗だなんて言ったのか。…なんで、俺から逃げるのか」
僕は、理由を言ったら今度こそ嫌われるんだろうなと思った。
「………実は、僕、変な癖というか病気で…」
「…病気?」
「…僕、大切な人ができると、傷つけたくなるんです」
良佐先輩は僕のことをじっ、と見ている。
「…友達でも、誰でも、ああ、この人好きだなと思うと、今度は好きっていう気持ちと一緒に、傷つけてみたいっていう気持ちまで出てきて…。だからいつもみんなとは深く関わらないようにしていたんです。親友も恋人も作らないようにしてきました。
この人はどんな苦しい顔をするのだろう。血で汚れた姿はどんな感じなんだろう。傷だらけになった姿はどんなに素敵なんだろう。そんなことばかり考えてしまうんです。…だから、」
「だから、俺のことを避けていたのか」
「…はい」
先輩の顔は変わっていない。怒ってもいないし、引いてもいない。
僕は話を続けた。
「先輩のことは好きです。でも、これ以上先輩と関わったら自分がどんな行動をするのかわからないところまで来てしまって…。話すことも避けていました。
…でも、あの時は二年生の教室で喧嘩をしている人たちを見てしまって…血とか怪我を見てしまい、自分の中でどうにもならなくなって…、それで自分が抑えることができなくて、先輩を殴ってしまいました…。本当にごめんなさい…!」
「…そうか」
先輩は僕を見るのをやめ、下を向いている。
「もう、こんなバケモノ、嫌ですよね。気持ち悪いですよね。だから、僕なんかはっ、忘れて…!」
「霧明…ッ!」
良佐先輩が下を向いたまま言った。
「霧明、大好きだ。一緒にいさせろ」
「で、でも一緒にいたら、先輩のことをいつか、殺してしまうかもしれない…っ」
「いいよ」
その一言が僕を震わせた。
「それでもいいよ。だからっ、一緒にいさせろ…。霧明、俺のことを好きにしろ。何をしたっていい」
良佐先輩はゆっくりと顔を上げた。その時の良佐先輩の顔は、少し赤くなっていて、可愛かった。
「……俺がお前の全部を受け止めるから」
言葉が出なかった。
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