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古書店で見つけたものは
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さびれた街の片隅。
学校帰り、何となく見つけた古書店にはいってみた僕は、店内を見回す。
店の奥で店員らしい男の人がカウンターで静かに本のページを繰っていた。
レトロな感じのこの店は静かで薄暗く、しかし清潔に保たれて落ち着く場所だった。
並んでいる本棚の間を縫って本を眺める。
客が多く騒々しい駅前などの本屋とは比べ物にならないほど落ち着いていて、本好きの僕には物凄くゆっくりと本を選べてとてもいい店だった。
好きだったが絶版になってしまっていた本のシリーズを見つけ、内心乱舞しながら値段を見る。しかしそこで僕の思考が一旦停止した。何故なら…
「い、1冊5000円!?」
…絶版ということもあり、ネットオークションでも引っかからなかった本だ。それなりにはするだろうと思っていたが、高校生のおこづかいで賄える値段じゃない。
シリーズは全巻で10冊。5万なんか一気に払えない。今持っているお金を確認する。
6482円。1巻だけ買おうと僕は渋々他の本を棚に戻した。
1冊だけでも買えるのだから、と気を取り直し、カウンターに向かう。
カウンターでは入ってきた時と変わらない格好で店員らしき青年が本を読んでいた。
本を抱え、前に立つとその青年は静かに本を閉じ、口を開いた。
「…5000円もする本、誰も買わないかと思ってた。よっぽど好きなんだね、その本」
「……え、あ、はい。昔読んで好きだったんですけど、見つからないと思ってたら絶版になっていて。もう一度読みたいと思っていたのでここで出会えてよかったです。」
話かけられると思ってなかったから、答える声が途切れ途切れになってしまった。
お金を払い終わり、包装済みの本を受け取ろうとすると、今まで俯いて話していた青年が顔をおもむろにあげた。
「…またおいで。俺もその本、好きなんだ。待ってるよ。」
青年は少しだけ笑みを浮かべて手を振った。
「…はい」
その瞬間、なぜだか顔が熱くなり、僕は小さく俯いて頷き店を出た。
「……っな、なんだこれ…。」
店の扉にズルズルと寄りかかる。まだ顔が熱かった。
僕が街の古書店で見つけたものは、好きな本と、そして…
……感じたことの無いドキドキだった…。
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