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「ぼ…坊ちゃん達は何を食べますか?」
赤くなる俺をからかう長谷川から逃れる様に、背後にいる坊ちゃん達にそう問いかけると…
「あ…あれ?」
坊ちゃんが居ない⁉︎
「ユキト坊ちゃん!アキラ坊ちゃん!」
慌てて辺りを見回しながら、名前を呼んだ。だけど、返事は返って来なくて…
さっきまで火照った身体から血の気が引いて行く。
「どうしよう、坊ちゃん達に何かあったら…」
「慌てていても仕方ありません。とにかく、探しましょう」
アワアワと慌てるだけの俺を、冷静な長谷川の言葉が宥めた。
その言葉に、深く頷くと、俺たちは坊ちゃん達の名前を呼びながら歩き出した。
「ユキト坊ちゃーん!」
「アキラ坊ちゃーん!」
人混みの中をかき分けながら境内の奥の方に向かって進んで行く。
「ーッ!」
履きなれない下駄が、石畳に引っ掛かり、コケそうになって、あっと言う間に長谷川の背中が遠ざかる。
「長谷川さん、まっ…」
呼び止め様とすると、長谷川は足を止めた俺に気付き、すぐに引き返して俺の手を取り強く握りしめた。
「…大丈夫ですか?貴方まで居なくなっては困ります…はぐれない様にして下さい」
「はい…」
長谷川の大きな手が、俺に「きっと大丈夫」だと伝えて来る…
その暖かく力強い手に引かれながら、人混みの中を駆け抜けて行った。
「居ないですね…」
「ええ。もう店は全部見て廻ったのですが…仕方ありません、一旦戻りましょう」
あれから、夜店が並ぶ一番奥までくまなく探したけど、坊ちゃん達の姿は無くて、俺たちは一旦戻る事にした。
さっき坊ちゃん達とはぐれた場所より手前の夜店に差し掛かった所で…
「あ!長谷川さんあれ!」
見覚えのある、お揃いの色の浴衣が二つ並んで、金魚掬いの夜店の前に、しゃがみ込んでいた。
「坊ちゃん方、こんな所にいたんですか。探しましたよ」
「本当にもう…勝手にあちこち行っちゃダメですよ!」
まさか、前に通って来た方向に引き返してるとは思わなかった。
ホッとして、涙でそうだ…
「え⁉︎僕たちちゃんと、金魚さん見て来るって言ったよ」
「うん。言ったー」
え…?
もしかして、さっきのチョコバナナだの、りんご飴だの長谷川と言ってた時か?
「どうやら、謝らなくてはいけないのは私達の方みたいですね」
長谷川が、俺の顔をチラリと見ると、苦笑しながらそう言った。
そうか…俺達、普通に夏祭りを楽しんでしまっていたんだ。
だから、さっき坊ちゃんが俺達に金魚を見に行くと言って行ったのに聞こえずに、二人の世界で…
「も…申し訳ありません坊ちゃん!」
「本当に申し訳ありませんでした。お詫びに何をすればよろしいですか?坊ちゃん」
長谷川がそう言うと、坊ちゃん達は顔を見合わせた後、ニカッと笑うと
「「金魚さん取って!」」
双子の如く見事なシンクロ率で、そう言った。
「イエス・マイ・ロード」
ん?
長谷川は何処かで聞いた事のある同業者のセリフを口にすると、浴衣の袖を肩まで捲り上げ、おじさんからポイとお椀を受け取ると、水槽の中を見つめて…
ーシュ!パパパパパ!ー
素早くポイを動かし、金魚が面白い様にお椀の中にチャプチャプと音を立てながら入って行く。
ポイが破れた頃には、10匹程の金魚がお椀の中で窮屈そうに泳いでいた。
「は…長谷川さん凄い!」
「お、兄ちゃん凄いね?!今日の最高記録だよ!」
テキ屋のおじちゃんも余りの早技にビックリしながらそう言った。
「ありがとうございます。あ、この金魚とこの金魚、二匹だけ別の袋に入れていただけますか?」
「あいよ」
長谷川の言葉にそう返すと、おじさんは手際よく金魚を袋に入れて、長谷川に手渡した。
「ありがとうございます。はい坊ちゃん方、どうぞ」
今度は金魚が沢山入っている袋を長谷川が坊ちゃん達に手渡す。
「わーい!」
「ありがとう長谷川!」
嬉しそうにそう言うと、坊ちゃん達は仲良く一緒に袋をぶら下げながら、そう言った。
あれ、もう一つの袋はどうするんだろう?
そう疑問に思っている俺の視線に気付いたのか長谷川が俺の目の前で、袋をユラユラと揺らした。
「こっちは…私達の分です」
俺達の…
「え…?」
目の前で揺られる透明な袋の中で、仲良く泳ぐ金魚…
黒と赤の二匹の金魚は、まるで…長谷川と俺みたいだ。
「明日、金魚鉢を買いに行きましょう」
「はい」
金魚鉢の中に、ビー玉や藻を入れたりして可愛くしたいな…なんて、今から楽しみにしてしまっている自分に気付いて、思わず顔が熱くなる。
「そ、それにしても長谷川さんって、本当に何でも出来るんですね」
照れ隠しにそう言うと、長谷川がクスリと笑った。
「大げさですよ。私にも出来ない事ぐらいあります」
「例えば?」
「フフ…秘密です」
「え?」
「弱点は、人に言う物じゃありませんよ」
長谷川の弱点を聞き出せずに不貞腐れていると…
ーヒューン…ドーン!ー
「あ…花火始まったみたいですね」
「わー綺麗」
夜店に夢中になっていたら突然花火の打ち上げ音が聞こえて来て、空を見上げながら俺と坊ちゃんはそう言った。
「せっかくですので、河原まで行きましょう」
俺達は遠くで上がる花火を見上げながら河原へと向かった。
すでに沢山の人が土手や橋の上に集まっていて、俺たちも橋の上で足を止めた。
ーヒュルルルル…ドーン!パチパチ…ー
「わぁ…」
「綺麗ですね」
俺が紡ごうとした言葉と同じ言葉を長谷川が紡いで…ふと、俺の手に長谷川の手が重なった。
「…はい」
思わず、長谷川の顔を見つめて、そう呟やくと、長谷川が優しく微笑んだ。
夜空に咲く大輪の花…
揺らめく水面にも彩りを添える。
長谷川の瞳の中にも、綺麗な花が咲いていた。
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