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躊躇う
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これまでに俺が、先生に頼り、先生に全てを話すことは何度もあったが、考えてみれば、先生の悩みや苦しみを聞いたのは、あの過去の打ち明け話の時だけだった。
つまり、俺は、先生のことを何も知らない。そのことに気づいて、愕然とする。
学生時代から、先生についてきて、何でも知っている気になっていた。
好きな食べ物、嫌いな食べ物、頭を掻く癖や、性格まで。
プライベートで、遊び相手を取っ替え引っ替えしていることも知っていて、きっとそれは、過去の傷が癒えていないんだと、思い込んでいた。
いや、先生を侮っていたのかもしれない。この人は、まだ立ち直っていないはずだ、そう思いたかった。
前に進めない自分への免罪符として。
先生だって、彼を忘れられていないじゃないか、俺がアキラを忘れられなくて、何が悪い。
心のどこかでそんな風に思っていた。
一方で、でも、それならば、どうして自分がすがり付けば、応えてくれるのだろうとも思う。俺への罪悪感だけ、なのだろうか。
それに、先生が遊び歩いていたのは事実だ。先生のマンションに色んな男が出入りしているのを、この目で確認してきている。
でも、先生の遊びが、思い出の彼との代替え行為ではなくて、ただ、自分の運命の相手を探すための過程だったとしたら?
ならば、話は変わってくる。
俺が、お互いに都合がいいと思っていた関係は、ただただ、先生の負担の上に成り立っていることになってしまう。
どうしよう。
まずは、事実を確認しなければ。
小林さんなら知ってるかな?でも、この前彼女、俺と先生が付き合えばいいなんて言ってたな。
本人に直接聞くこともできるが、自分の後ろめたさがそれを避けようとする。もし、先生に直接聞いて、俺の勘違いでも、かなり気まずいし。
やっぱり、あのママに聞いてみるしかないのか・・・
結論はすぐに出たが、あの店に顔を出すことは躊躇われた。
「・・・リョウ君?」
かなり物思いに耽っていた俺の目の前で、先生が手を振っていた。
「大丈夫?かなりぼんやりしてたけど。二日酔いなら薬あるよ?」
慌てて、否定のために首を横に振る。
ずっと物思いに耽る対象となっていた本人が、いきなり目の前に現れるのは、心臓に悪い。
「すみません、少し考え事してました。何かご用でしたか?」
「来月もこの前と同じようなイベントがあるらしいんだ。それで、ちょうどその日は、僕も地方の講演が入っててね。まあ、君に任せるつもりだったから、別にいいんだけど。あそこの役所の担当者と顔合わせはしといた方がいいかなって」
自分に任される重さに身が引き締まる。とりあえず、この件は後回しだ。
まずは、仕事に集中しないと。
メモ帳と、スケジュール帳代わりのスマホを片手に、先生と打ち合わせを始めた。
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