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体育館裏まで来た。
今日は館内を点検するからってことで毎日体育館を使ってる運動部は外練に出ていた。開いた窓から中を覗くと点検が終わったのか、業者の人達もいなくてがらんとしていた。
中庭──って言っても広いからな…
ここにいればいいんだけど
そう思ってぎゅう、と握るスクールバッグに視線が移動する。
…あいつの荷物も持ってきちゃったわけだし
なんて理由をつけて渡そうか。
「クラスの人に頼まれて」?
…俺の周りを取り巻く状況からしてありえないな。
「帰らねーの」って?
約束したわけじゃないんだし、置いて帰ればいいだろ。
なるべく自然に…変に思われないように…って、そもそも俺があいつの鞄を持ってる時点で不自然極まりないじゃないか。理由うんぬんの話以前の問題だ。
でも、ここまで来た以上、今更引き返せないのも事実。
はぁ、と再びため息が漏れる。
見つけ次第、さっさと鞄を渡して帰ろう。あいつがなにか言う前に!
そう決めて歩みを速めた。
少し歩いた先に人影が見えた。
──あ…寝てる…?
近付いていくと生い茂った草花に囲まれた中に地面に背をつけたそいつがいた。
顔には本が見開きの状態で覆い被さっている。小説かと思ったが、どうやら日記帳らしかった。
「こんな奴でも日記なんてものを書くんだな…」
すぐ横まで来ると、さわさわと草の擦れる音と微かに小さな寝息が聞こえてきた。
静かにそこに腰を下ろし呑気に眠るそいつを見つめる。
こいつも黙って寝ていれば文句はないんだけどな…
風に揺れる銀髪がまぶしくて、思わずそこに手を伸ばす。
細くて、サラサラで、触っていて心地よかった。俺のゴワゴワした髪とは大違いだ。
「…ん……んん……」
「っ、!」
起きたか、と思い大袈裟なほど心臓が飛び跳ねる。髪を触っていた手も反射的にバッと自身に引き寄せられた。
起きたらなんて言おう、なんて焦る頭で考えるが、それも取り越し苦労だった。んー、という声とともに寝息が聞こえてくる。
…まだ心臓がドクドク言ってる…
そいつが「んん…」と唸りわずかに顔がこちらを向く。その拍子に乗っていた日記帳がバサリと落ちた。
──う、わ……
収まりきっていない鼓動が速まるのを感じた。
なんだか無性に手がうずうずして、一息置いてぺたぺたとそいつの顔をまさぐった。
……肌、やっぱり白いな…当たり前だけど、俺みたいに隈もないし…あ、まつ毛長い…
時折、眉をひそめて嫌そうな顔をするものの起きる気配は一向に感じられない。
…これ……起きたら絶対怒るよな……
ここへ来る前の俺の決意なんてとうにどこかへ消えてしまっていた。
「なんで俺、あの時…"お前に会いたい"なんて思ったんだろう……」
お前といると自分が自分でなくなるようで少し、怖い──
つ、と薄く開いた唇に俺の指が這う。
「お前の問いは…………俺には難し過ぎるよ…………」
俯いて、目を閉じた。
そうしたら、あいつの罵声が聞こえてくるような気がした──。
まるでそれを望んでいるかのように…
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