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素顔
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忘れ物を持って302号室のインターホンを押すと、増村がドアから出てきた。そわそわしている。
「はい、これ。」
「ありがとう。あ、上がって。お茶くらい出すよ?」
「いいの?」
「うん。」
「ありがとう。お邪魔します。」
「あのさ」
コトリとお茶の入ったコップを俺の前に置きながら、不安気な顔をされる。
「何?」
「中身、見た?」
ああ、やっぱり気にしてるんだ。
「全然。」
流石に”見た”とは言えない。
「田辺君、顔が引きつってる。」
しまった。顔に出てしまっているとは。
「そうかな?」必死で真顔に戻す。
「なんか、怪しい。」
怪訝な顔になる君。そんな、大きな瞳でじっと俺を見つめられても困るな。思わず視線をよそにやってしまう。
「あー、見たんだ……。」
ダメだ。ギブ。
「はい……その、ごめんなさい。」
正直に答えれば、すぐ近くにある顔が耳まで真っ赤に染まる。そして、ぼそりと「何で見んだよ。俺、超恥ずいじゃん。」と言った。
あ、やっぱり一人称は”俺”なんだ。
素の君を久々に見た気がする。
「何だよ、ニヤニヤして。」
「え?」
「顔。」
「ああ、ごめん。」
コホンと咳払いをしたあと、気を取り直して口を開く。
「増村、あのさ。」
「何だよ。」
「お前、マメ過ぎ。てか、普通にしてろよ。」
「は?」
唐突に俺がそんなことを言ったからか、驚いた顔をされた。
「口調、俺の為に技と可愛らしくしなくてもいいよ。」
「べっ別にそんなことしてねーし!!」
「そうそう、その調子。」
「笑うな!そしてからかうな!」
うん、そっちの方が俺も話しやすい。口元が緩んだままでいると、君はムッとした表情でこう言った。
「絶対に落とす!落としてやるからな!」
今までの控えめでおしとやかな印象は消え去る。その代わり、俺は君の行為一つ一つがたまらなく面白くてはまってゆく。
ああそうだ、もう一つ気になっていたことがあったんだった。
「その手帳の中でまだやってないことがあるよね?」
「は?」といった後にすぐ表情をかえる君。本当に面白い。
「デート。」
「……!!」
「俺と、どこに行くつもりだったの?」
ぐいっと顔を近づかせて問えば、恥ずかしさからか目を泳がせる君。
「ま、まだ決めてない。俺はアンタの趣味趣向とかをちゃんと知った後で、どこ行くか決めるつもりだったし。」
どこまでマメなの?
口調は荒いのに、見た目と中身が乙女だなと思った。
「でももう、バレたし。なんか、どこ行きたいかとかあるんなら、その、今週の土曜日にでも、どっか、行こう?」
泳いでいた目がこちらを向いた。恐る恐るといった感じで。
散歩に行きたい犬みたい。
「いいよ。」
可笑しくて微笑んでたら「デートコースが決まり次第、連絡するから。」と顔を隠しながら言う君の姿。
見ていて飽きない。
「わかった。じゃ、土曜日にな。」
「うん。」
妙に大人しくなった君は、俺を玄関まで見送ったあと、部屋の中でぼそりとこう呟くのだった。
「ずるいよ、本当に。」
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