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再会 3
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「よしっ!あとは大将のみっ」
亮平が陣地を取得し、残るは敵陣大将。
現在戦っている敵武将は、刀を6本操る、独眼の武将だ。
俺が技を使い先に切り込み、後を亮平が止めをさした。
「うし!」
戦いが終わり、取得した戦利品の画面に切り替わる。
「すごーい、聖夜。うまいね」
横でずっと見ていた純が、パチパチと手をたたく。
「あぁ!ホントに初めてやったのか?このゲーム」
「初めてだよ。なかなかおもしろいな?」
「だろだろぉ?純はこのテのゲーム、ヘタックソなんだよー」
「だぁって、自分がどこに向かってるのか、わかんなくなるんだもん。
どのボタン押したらいいのかも、覚えらんない」
「純はどんくさいかんなー」
「あっ、ヒドイ」
むぅっとふくれっ面の純は亮平の肩を軽く叩いた。
「この前敵じゃなくて、おもっきり味方に向かって攻撃してたじゃん。
しかも、真剣に¨アレ?なんで当たらないの?¨とか聞いてくるし。
味方に当たるワケねぇっつの!」
ゲラゲラと思いだし笑いをする亮平の横で、俺も純のおとぼけエピソードに思わず笑ってしまった。
「あっ聖夜まで笑うなんて…ヒドイ」
「ごめん、ごめん」
またしてもむぅとむくれる純のその顔に、また笑った。
いつぶりだろう。
こうやって、¨友達¨と他愛もないことで笑い、一緒の時間を過ごすのは。
「よーし、聖夜!次行くぞ、次っ」
「頑張ってー」
気さくに話しかけてくれた二人。
普通に接してくれる、亮平と純。
「…おう!」
友達なんて、作るつもりはなかった。
今の¨俺¨は偽物で、汚れた人間だから。
だけど──。
「うらっ!よっし、陣地制覇っ」
「あっ、一獲千金だよ~」
「倒して倒して倒しまくれぇ!」
──俺は、二人を騙している。胸にくすぶる、罪悪感。
いつか、この二人に、本当の¨俺¨を知られる日がくるかもしれない。
侮蔑の眼差しを、向けられるかもしれない。
だけど、それまでは──。
「よっしゃ!後は大将!」
「二人だと、展開が早ーい!」
この、居心地のいい空間に居たい。
「亮平、行くぞっ」
「おー!!」
そう、願った。
「…ん…」
首が、痛い。
そう思いながらうっすら目を開ける。
肩にはブランケットがかけてあった。
辺りを見回すと、純と亮平が視界に入る。
純はソファで横になり熟睡中、亮平は床に転がり熟睡中。
俺はソファに寄り掛かりながら寝てたみたいだ。
壁に掛かってある時計を見ると、朝の7時過ぎ。
今日は土曜日、学校は休み。
だから昨日、遅くまでこの3人でゲームをしていたんだけど…。
どうやら、いつの間にか寝入っていたようだ。
座った態勢で寝ていたためか、体がガチガチに固まっている。
立ち上がり、んーっと大きく伸びをすると、人の動く気配を感じたのか純がうっすら目を開けた。
「…ん…聖夜…?」
「あ、わりぃ。起こしたか?」
「ん…だいじょぶ…。今何時…?」
「7時すぎ」
「そっか」
純も起き上がり、伸びをしながら亮平を見つける。
「あー、もう。またお腹出して寝てる。すぐお腹壊すくせにぃ」
そうつぶやき、自分が被っていたタオルケットを亮平に被せる。
そんな純の言動は、本当に亮平の母親みたいだ。
まぁ、純が亮平にかけてやったタオルケットは、真っ先に寝入ってしまった純に亮平がかけてやったもの。
『コイツすぐ風邪ひくからさー』
そう言って、テーブルに伏せって寝てしまった純を抱き起こし、ソファに寝かせてあげていた。
俺の肩にブランケットをかけてくれたのも、亮平なんだろう。
「仲いいのな?」
「ん?僕たち?僕と亮平は幼なじみなんだ。亮平の両親は海外へ行ってる事が多くてね。
小さいときはしょっちゅう僕の家に帰ってきてたよ」
預けられるじゃなく、¨帰る¨と言った純から、亮平を大切に思っているんだなと伝わる。
「あ、聖夜。まだ寝る?もう起きる?」
「目覚めたから起きる」
「んじゃ、シャワー浴びてから、朝ご飯行こ?」
「おう。亮平起こす?」
「亮平はほっといて大丈夫だよ。休みの日に朝早く起きることなんて、滅多にないもん。
ほっといたら、昼過ぎまで寝てるよ」
「そっか」
俺たち二人はそれぞれ自分の部屋に戻り軽くシャワーを浴びたあと、食堂に向かう。
学生の休日ってものは大半朝はダラダラと過ごすもの。
それは由緒正しいお坊ちゃん方も同じらしく、食堂にはポツリポツリとしか生徒はいなかった。
いつもとほぼ変わらない時間に来た俺たちは、今日の朝食であるフレンチトーストが運ばれて来るのを待っていた。
「っつかさ。
休みの日はダラダラしたいのは分かるけど、朝食8時半までだろ?
食いっぱぐれるやつ多いんじゃね?」
現在は8時過ぎ。
いつもなら食堂内は生徒でひしめき合っている時間だ。
「平日はその時間までだけど、休日は時間で区切っていつでも何かしら食べれるようになってるんだ。
11時までが、ブレックファーストタイム、14時までがランチタイム、17時までがブレイクタイム、22時までがディナータイムだよ」
「…へぇ…」
いやもう、完璧レストランカフェだな。
夕食のルームサービスがあるんなら、朝食とか昼食もあんのかな?
疑問に思い純に聞くと、あるよ?と返ってきた。
…あるんだ。
半ば呆れた俺は、へぇ…と返すだけにし、純と二人運ばれてきたフレンチトーストを食べ再び部屋に戻った。
10時頃に起きたらしい亮平は昼からまたゲームをしようと誘ってきたが、用事があると断った。
亮平は俺が断る理由も聞くことなく、んじゃまたやろうぜ!と純の部屋へ向かっていった。
亮平が誘ってきてくれるのは嬉しい。
が、母さんの病院や…夜の街へとこれからも度々出かける俺は、亮平の誘いを断ることが増えるだろう。
理由も言わず断り続けるのは、二人に悪い気がする。
次、機会があれば二人には母さんの見舞いで出かけることを話そうかな、と思った。
出かける準備をして病院へ訪れた俺は、母さんの耳元で純や亮平と昨日ゲームをしたことや学園での生活を話しながら過ごす。
相変わらず母さんは目をつぶったままだ。
母さんの呼吸の音と、ピッピッという機械音が響くだけの病室。
病室に着いたときには真上にあった太陽が今は姿を隠し、代わりに細い三日月がほんのりと夜を照らしていた。
窓辺からその三日月を眺め、遠い記憶を呼び覚ます。
まだ俺が…俺たち家族が¨平和¨だった頃。
母さんは夜になると家の庭で、よく歌を聴かせてくれた。
『聞いて聞いて。新しい歌作ったのよ』
『わぁ!母さん、聞かせて?』
『じゃあ父さんは母さんの歌を聞きながら珈琲でも飲もうかなぁ』
月明かりの下、微笑みながら歌う母さん。
キレイ…だなんて母さんを見て思う俺は、マザコンだったのかもしれない。
耳に届く歌声。
力強く歌うわけじゃなく、囁くように言葉を紡ぐその歌声は気持ち良く耳に響いた。
その思い出をたどるように、口ずさむ。
「So that thereis not the rain which dose not stop──…」
─止まない雨がないように─
「Your tears tell the end sometime,too──…」
─君の涙もいつか終わりを告げる─
「And you show a smile──…」
─そして笑顔を見せるんだ─
「Like the sky of theday when it was fine──…」
─晴れた日の空のように─
──母さん。
また歌ってよ。
俺はそっと目を閉じ、思いをつのらせる。
何度も、何度も、繰り返してきた言葉。
「……りに……し…で…。」
病室のなか、機械音に紛れ…俺のつぶやきは解けて消えた──。
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