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染めゆく赤
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side Ryu
「バカがっ!お前が無事じゃねぇだろうが!」
聖夜の顔から、血の気が引いてゆく。
クソっ、何で……!
「聖夜!」
聖夜の体から、力が抜けていく。
降りていく、瞼。
「聖夜!」
俺は、ただ名前を呼ぶ事しか出来ない。
聖夜の口が、動いた。言葉になっていないそれ。
──”笑って”
「……っ、」
──笑えるワケ…っ、ねぇだろうが!
聖夜の体から、完全に力が抜けた。呼吸は弱々しく、顔は、白い。
「……っ、聖夜っ……!」
腹部から溢れていく赤い血。
それは、白い着物を染めていく。
「……っ、クソっ……、……っ!」
耳に、サイレンの音が届いた。
聖夜の体を抱き上げ、屋敷の外へと走る。
その後を、赤い血が、地面を染めていく。
聖夜……、死ぬな。
頼むから、死なないでくれ。
深夜の病院に、飛び交う声。
医者は看護士に指示を出し、看護士たちは慌ただしく行き交う。
俺は、ただ祈るしか出来ない。
頼むから助けてくれ、と。
運ばれたのは、明良の病院。
急ぎ駆けつけた良和さんが、処置室の中に入って行った。
ふと自分の両手を見つめる。
聖夜の血で染まった、赤。
脳裏に、甦る情景。
さっきまでの飄々とした態度とは一転し、わめき散らす小笠原。
それを黙らせるために、間宮が一歩足を踏み出した、その時。
横からの強い衝撃に、俺の体はよろめき、傾いだ。
聖夜が背中を向けて立ち塞がる、向こう。視界の端に、迫り来る八澤を捉える。
そして──……
鮮血が、ほとばしる。
傾く体、足を踏ん張り、聖夜に手を伸ばす。
もっと、もと早く動け。とてつもなく遅く感じる。
振り上げられた、ナイフ。
本来なら鈍く光るその刀身が、赤く染まっていた。
八澤の右手首で、切断されたネクタイが揺らめく。
その間にも、振り下ろされる、刃。
そして、また赤が、舞った。
足を踏み出し、聖夜の腕へと必死で手を伸ばす。
唸る、八澤。
聖夜の腕を掴み、引き寄せた。
隙を突いて間宮が右手からナイフをはたき落とし、八澤を沈めた。
わめく小笠原をレンが抑え、ミツが黙らせた。
聖夜を抱き留める。
聖夜の体から溢れていく、血。
まるで命を削り取るように溢れて行く。
切断されたネクタイ。隠し持っていた、ナイフ。
──あの時。
俺がちゃんと八澤の体を調べていれば。
隠し持つナイフの存在に、気づいていれば。
いや、起き上がれないぐらいに、もっと痛めつけていれば。
──後悔しても、もう遅い。
刺されたのが、俺だったら良かったのに。
聖夜を、助けたかった。
聖夜を、守りたかった。
──守れなかった。
「……っ、クソがっ……!!」
拳を壁に打ちつける。
聖夜。
聖夜。
何度も何度も、心の中で呼んだ。
「聖夜……」
ベッドに横たわる聖夜の頬を撫で、髪を梳く。
命に別状はなかった。
ただ、血を流したすぎた為、出血性ショックで一時は危うかったと聞いた。
青白い顔。
ピクリとも動かない瞼。
かすかに聞こえる呼吸の音が、聖夜は生きてると伝えてくる。
あれから、10日が経った。
聖夜の意識は、まだ戻らない。
あの後、小笠原と八澤は駆けつけた警察によって逮捕された。
俺たちが集めた証拠をもとに裁かれるだろう。
小笠原と契約をしていた海外企業全てに手を回し契約を破棄させ、小笠原はもう実質壊滅状態。
黒金組も数々の悪事が露呈し、逮捕者が続出。
海外へ高飛びを目論んだ黒金組組長も、空港を目前に捕まった。
大手企業の陥落、大財閥と暴力団との癒着。
テレビや新聞、週刊誌はもっぱらその話題で持ちきりだった。
「聖夜……」
お前を煩わせるものは、もう何もない。
だから、起きろ。いつまで眠ってるんだ。
頼むから──。
……早く目を開けてくれ──…。
聖夜の髪を梳きながら、窓へと視線を向ける。
外は眩しいほどの夏空が広がっていた。
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