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青藍祭 4
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「お帰りなさいませ、ご主人様………」
「あ、あの、大丈夫ですか……?」
さて、青藍祭二日目です。今日も昨日に引き続きカラッと晴れたいい天気。
オープンカフェにはもってこいの日和となりました。
開店前から執事喫茶には長蛇の列。
オープンして30分。
今日も絶好調で執事を演じて………いません。
ヤバい、マジでテンションが上がらない。
ぼーっとする俺を見て、目の前の客たちがオロオロしはじめた。
おっと、いかん。
「ご主人はお優しいですね。その優しさが胸にしみます」
と、とりあえず笑っておく。
なぜ俺のテンションがこんなにも落ちているかというと……それは約二時間ほど前に遡る。
今日は朝の集会はないから、十時半まで生徒会四人で廻ることに。
恰好はもちろん、執事服。今日は一般客も入るので、宣伝も兼ねて。
「ねーねー、しろっちのクラス、お化け屋敷してんでしょ?
俺行きたかったんだよねー。行こーよ」
なんて言い出したのは木宮先輩だった。
隆盛が返事をするよりも、相楽先輩が口を開くよりも早く、叫ぶ。
「いっ、嫌です!」
俺の突然の叫びに、三人はキョトン。
そして、いち早く察知した相楽先輩が、クスリと笑った。
「白川くん、お化け屋敷嫌いなの?」
「う、……ハイ」
高校生にもなってしかも男が嫌いとか何言ってんだよって話しかもしれないが、嫌なもんは嫌だ。
「へぇ~」
「ほぉ」
「クスっ」
……なんですかみなさん、その笑いは。
三人はイタズラが思いついたような、人の悪い笑みを浮かべていた。
「いーやーでーすー!」
ズルズル、ズルズル。
両脇を相楽先輩と木宮先輩に抱えられ半ば引きずられている俺。
学園の生徒は相変わらずキャーキャー騒いでいるが、一般客はなんだ?って顔して見てきてる。
「りゅっ、隆盛!助けてっ」
後ろをついてくる隆盛に助けを求めても。すげーいい笑顔を返されるだけだった。
つまり、助ける気はナイと。
むしろ嫌がる俺を見て笑っていやがるな?このやろー。
「しろっちー、楽しいって、絶対」
ウッキウキしながらにこやかに笑いかけてくる木宮先輩。
いや、だから楽しくありません、楽しみたくもありません。
「白川くん、嫌いなものはね?頑張って克服しなきゃ。
ほら、言うでしょ?好き嫌いはいけませんって」
ね?なんて子供に言い聞かすように述べる相楽先輩。
それは食べ物!ニンジンもピーマンもシイタケも食べれますから!
遠目から見ても、入口からすでにホラーの世界だった。
「ひゃぁ~怖そうっ」
「すごいね、本格的だ」
「なかなかやるな」
ひとりはテンションMAX、二人は感心とばかりに頷き、残る俺は……。
「…………」
見ない見ない見ない見ない見ない見ない見ない。
ぎゅぅぅぅっと目を閉じ、目に写らないようにしていた。
「四人まで一度に入っていいみたーい。行くよ~」
「ほら、白川くん。目開けないと転ぶよ?」
「聖夜、手を繋いでやるから」
その言葉に俺は近くにある腕に抱きついた。
「こら、そっちじゃねーだろうが」
「別にそのままで良かったのに」
「しろっち、俺に抱きつく~?」
どうやら相楽先輩の腕だったようだ。どうりで細いと思った。
ベリッとはがされ、引っ張られる。
「他の男に抱きつくな」
いやだって目閉じてて見えなかったし。
とりあえず頷いておいて、俺は今度はちゃんと隆盛の手にしがみついた。
「すごいね、本物の生首みたい」
「うわぁ、すごい血溜まり~!」
「ほぉ、なんか本物の殺人現場みたいだな」
「ほら、見て見て。肉半分腐ってる」
「うひゃ~、骨見えてる~」
「グロいな」
止めてください、マジで。
何故かこの人たちいちいち目にしたものを口に出します。何ですかイジメですか。
頭に広がるじゃねぇか!
しかもすきま風とか、水が滴ったりとか、誰かの呻き声とかの効果音に加えて、誰かの手が伸びてきたり、おっきい物音したり、上からなにか落ちてきたり。(わ~、首~って呟きは聞かなかったことにする)
その度に体がビクついては悲鳴を上げる俺をよそに、この三人は無反応。
いや、無反応ではないか。いちいち感想言ってるよ。
ちったぁ怖がれよ。おどかしがいのない奴らだな。
俺をみろ!こんなに怖がってたら、製作者冥利に尽きるだろ!
と口にする余裕はない。隆盛の腕にしがみついて歩くのに必死。
いやだもうかえりたい………。
なんて俺の心の声なんて届くわけもなく、歩いていく三人、歩かされる俺。
何か、スライドする音が聞こえた。
ドアでも開けたか?なんて考えてると……
ドカァァァァァッ!!
「──うぎゃぁぁっ!」
雷が落ちた、ものすごい破壊音。
それまで静かだっただけに、余計驚いた。
あまりの驚きに、しがみつくどころか一気に力が抜け、床にへたり込んでしまう。
ゴロゴロゴロ───と雷の余韻が残るなか、俺は必死にぬくもりをさがす。
「……りゅ、せ…?」
返事がない。
え、ちょ……やだ!
「りゅーせい!」
叫ぶように名前を呼ぶ。それでも返事はない。
置いてかれた?
え、ウソ、マジで?
……見て、捜した方が、早い……?
意を決して、恐る恐る目を開ける。
そして前を向いた。
「───────………。」
落ちた眼球、えぐれた耳、血が滴り、裂けた口。
死にかけた侍が、そこに座っていた。
距離約50センチ。
怖さMAX。もう無理。
バタン!
俺は意識を飛ばした。
そして目が覚めるとそこは生徒会室の仮眠室で。
三十分ぐらい意識を失ってたみたいで。
さすがに申し訳無さそうに俺を見る三人がいて。
最後に見てしまったアレが大ダメージで。
怒る気力もわいてこず。
時間までふて寝して時間になったからガーデンに行って、今にいたる。
「あの……具合でもわるいの?」
「いえ、ただお嬢様の美しさに見とれていただけですよ。ご心配ありがとうございます」
「う、うん……」
「悩み事なら聞こうか?」
「お優しいですね。しいていうなら、お嬢様の美貌がわたくしの悩みでございます」
「そ、そう……」
「素敵です!わたしの家に来て欲しいー!」
「お嬢様からのそのようなお言葉……嬉しく思います。お嬢様に仕えることができたら、幸せでしょうね」
今日は一般客も入っているため、女性の客もいる。
学園の生徒と一般客がどばっと押し寄せた為、わずか15分で受付終了。
すげー忙しい。
忙しい、が、ダメだ、気力が………。
それでも何とか頑張って、ただ今の時刻14時40分。
予約はあと一組、今入ってきたあの客が最後だ。
「お待たせいたしました、お嬢様方」
相楽先輩がフルスマイルで女性客二人を案内していく。
「白川くん、これ運んでくれる?」
「はい」
本日最後の女性客のドリンクらしく、相楽先輩からトレーを受け取り運ぶ。
「お待たせいたしました、お嬢様」
ショートヘアのほうがアイスミルクティーで、ロングヘアのほうがアイスカフェラテ、な。
客の前にそれぞれドリンクを置く。
「ごゆっくりお過ごしくださいませ、お嬢様方」
そう言って去ろうとすれば、ねぇ!と呼び止められ振り返る。
「はい、なんでございましょうか」
「あなたのお名前は?」
ロングヘアのほうが聞いてきた。
今日は一般の客から結構な頻度で名前を訊かれた。またか、と思いながら微笑を浮かべて名乗る。
「白川聖夜と申します」
「何歳?」
すると間髪を容れずに次はショートヘア。
「15歳です」
「見えなーい!大人っぽーい!」
「ね~!すごいキレイな顔してるしー!」
きゃあきゃあと騒ぐ二人。
他にもお客さんいるし、もうちょい声小さくしてくんないかな。
「ねぇ、あなた恋人は?」
「なーにー、アンタ逆ナン?」
「えー、だってすっごいタイプなんだもん!ね、ね、恋人は?いる?」
ナンパ的な奴はいたけど、恋人の存在を確認されたのはこれが初めて。
……これは、どう答えたらいいんだ?いるっつっていいのか?
それとも”わたくしはお嬢様に仕える身ですので”とか言ってごまかした方がいいのか?
うーん、と曖昧な笑顔を浮かべて言いよどんでいると、ロングヘアの客は目を細めてふふっと笑った。
……なんかヤな笑顔だな……。
「まぁ、どっちでもいっか。いたら奪っちゃえばいいだけだしー」
「アハハっ!でたよー、アンタの悪い癖!」
「ねぇ、おねーサンと…イイコト、しない?」
上目遣いで言いながら横に立つ俺の腰に手を伸ばし、さわさわと触れてくる。
「……からかうのはお止めください」
…どーしたもんかな。野郎だったら容赦なく捻るんだけど…女の人だしな。
ってか一般客相手にどうあしらったらいいんだ。頭まわんねー…
「からかってなんかないわよぉ。おねーサンがいっぱい教えてあげるって言ってんの」
自信たっぷりの笑顔で見上げ、そしてさっきよりも大胆な動きで腰を撫でてくる。
……あー、ダメだ。イライラしてきた。
周りへの迷惑も考えずに騒ぎ、ウザイ誘いにセクハラ。今ね、俺ね、余裕ないんだよ。
「ね、楽しいことしよ?おねーサンが──」
「黙れ」
「え?」
「触んな」
さっきからずっと撫で続ける手を払いのける。
「キモイ」
「なっ、何よ!客にそーいう態度とっていいわけっ?」
あー、だから喚くな、ウルサい。
もー無理。接客なんてしてられるか。
上手くあしらえないです、ごめんなさい。
と、心の中で隆盛と相楽先輩と木宮先輩に対して謝る。
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