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第18章―虚ろな心―6
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――鳥人族の戦闘で負傷した竜騎兵の隊員達は、タルタロスの牢獄にある治療室で治療を受けていた。隊員達は一角の部屋でみんなベッドで横になって大人しく寝ていた。ある者は弓矢で大怪我を負ってベッドの上でうめき声をあげていた。その部屋とは別に、ユングは違う所で治療を受けていた。ベッドの上で突然、目を覚ますと高い天井が見えた。見慣れない天井にユングは目をキョロキョロと動かした。
「うっ…あ、あれ…? ここは…どこだ……?」
「ようやく目が覚めたか――」
「えっ…?」
近くで声がすると聞こえた方へと首を傾けた。すると近くでリーゼルバーグが椅子に座っていたのが見えた。
「リーゼルバーグ隊長、ここは…――?」
「ここは治療室だ。お前はこの2日間、ずっと昏睡状態だったのだ。このまま、目を覚まさないかと心配したが意識が戻って安心した」
「ふ、2日間も昏睡状態……?」
「ああ、そうだ。何も覚えておらんのか?」
リーゼルバーグはユングの傍に近づくと尋ねた。質問すると、彼は首を横に振って答えた。
「す、すみません…。何も覚えてないんです……。何か自分の身に起きたような気がするんですが…――」
そう言って答えると再び天井を見上げた。何も覚えていないことがわかると、リーゼルバーグは然り気無く話した。
「よいか、お前はダモクレスの岬で海に落ちて溺れた仲間を助ける為に自ら助けに行って、逆に溺れてしまったのだ」
「っ…! そ、そう言えば確かそんなことが…――!」
ユングはそこで頭を押さえると何かを思いだし始めた。
「リ、リーゼルバーグ隊長! マードックさんは無事ですか!?」
「ああ、無事じゃ。大怪我はしたが命には別状はないそうだ。彼は今、他の病室で治療を受けている。お前の勇敢な行動で、彼は溺れかけた所を救われたのだ」
「そ、そうですか…! 助かってよかった…――!」
その話を聞くと安心した顔で胸を撫で下ろした。リーゼルバーグは、ユングの隣で軽く説教をした。
「……しかし、時にその勇敢さが命取りになる事もある。その事をよーく、胸に刻むのだ。わかったな?」
彼はそう話すと時に勇敢な行動が逆に命取りになる事を諭した。ユングはその言葉を素直に受け入れると反省した。
「――そうでした。僕はマードックさんを助けに行ったけど、逆に海に溺れてしまったんでした。それにリーゼルバーグ隊長や、ハルバート隊長にも沢山迷惑をかけてしまって…――! なんだか自分が情けないです……! 僕はマードックさんを一人でも助けられるとおもったんです! それなのに僕は……!」
ユングはそう話すと掛け布団を両手で握って悔しさを込み上げた。
「才余りありて識足らずと言う言葉がある。自己過信ほど、時に危うさを招く事もある。自分に出来る力とは、常に限られておるのだ。お前は勇敢だが、まだ体は小さい。勇敢な男になりたいのであれば、まずは己を知る事が大切だ」
「はい……!」
リーゼルバーグはあえてそう話した。ユングはその言葉に、自分の無力さを改めて感じた。
「しかしユングよ、お前のその勇敢な行動は目をみはるものがある。お前の父親もさぞかし勇敢な男だったのだろう。父親から良い部分受け継いだな。その志を忘れるではないぞ?」
彼はそう話すと優しく笑ってユングの頭を撫でた。少年には、彼が自分の父親の様に見えた。
「――そう言えば僕、あの時……」
「どうした?」
「僕はあの時、海で溺れて意識を失っている間。不思議な夢を見たんです……。亡くなったお父さんが夢の中に出てきて、それにリーゼルバーグ隊長の声が心の中で聞こえたんです。あれは僕の|夢《まぼろし》だったんでしょうか…――?」
ユングは不意に彼に尋ねた。
「それは恐らく深層意識の間の夢だ。何故そんな夢を見たのか私にはわからん。だが、お前はあの時にすでに生死の境目をさ迷っていた。人は生死の境目をさ迷った時にこそ、必死に生きようとするものだ。お前がその生死の境目で踏みとどまったのは、生きようとする意志が強かったからだ。それにお前を救ったのは私ではなく、お前の父親だ。私は只、お前の心の嘆きに耳を傾けただけの事――」
「僕の心の……?」
「ああ、そうだ。私はお前に私の一部を分け与えた。それがお前の心の奥の深層意識に届いたのだろう。私にもお前の声が、魂を通して通じたのだ」
「魂を通して……?」
ユングは彼のその言葉に驚いた表情を見せた。
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