アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第7章―闇に蠢く者―2
-
男は必死で我子の姿をさがした。だが、暗闇の中にながい間つなぎ止められた彼の体は、体力は衰え視力も衰えていた。そして、見るもの全てが霞がかかったように見えたのだった。彼はそんな絶望の中で我子の名前を呼ぶと、ただ無情な現実に泣いて打ち拉がれるしかなかった。黒いローブを纏った者は、暗闇の中で再び話しかけた。
「私は貴方様を助ける為に地獄門を叩いて参りました。例え同胞が誰ひとり助けに来なくても、私が必ずや貴方様をここからお救い致します! そのためなら、この命惜しくなどありません…――!」
彼は暗闇の中で己の信念を告げると、床に跪いて誓いを立てたのだった。
「お前は我が子の4人の兄の中でもとくに勇敢な男だ。呪われた血を受け継ぎ、鷺にも天使にもなれぬお前を苦しめたのは、私のせいだ。どうか許せ我が息子よ…――!」
カマエルはそう話すと両目から涙を流した。酷く悲しみに暮れる姿にローブを纏った者は沈黙したのだった。
「……お前が来ていると言うことは、3人の兄達もここに来ているのか?」
その質問に彼は返事をした。
「いいえ、父君。参ったのは私だけです。今は天界は、人間と魔族の脅威に曝されつつあります。西に構えるエルグランドは日に日に勢力を増して来ています。人間の王は正気を失われ、狂王となられました。今では誰の言葉も信じません。王は自国の民を唆し、他国さえも我がものにしようとしています。そして、強欲な王は今では世界さえも手に入れようとしています……! その為なら我ら天使と戦うことも厭わないと、王は自国の民にそう告げたのです…――!」
ローブを纏った者は暗闇の中から一歩前に踏み出すと、月光が照らす月明かりの下で姿を見せたのだった。カマエルはその言葉に衝撃を受けると、顔が一気に青ざめた。
「なっ、なんて恐ろしいことだ……! まさかエルグランドが我らの脅威になるとは……!」
彼は人間の醜い欲望のまざまざしさに、激しい怒りを感じてうち震えた。
「どうかお聞き下さいカミーユ様。遥か遠い古にミカエル様が倒して地の果てに封印なされた邪悪な王が地獄から再び目覚めようとしています……! そして、その前兆とも呼べるべき事態が起きました……! モルグドアの暗黒の門が僅かですが開きはじめています。もし、門が全て開いてしまったならば、この世界は千億の絶望の闇に呑み込まれる事でしょう……! そうなれば人間も獣も全ての生き物も植物さえも滅びます。そして、モルグドアの暗黒の門から邪悪な悪魔の王サタンが目覚めて天界を滅ぼしにやって来ます……! そして、天界だけではなく地上さえもサタンは破壊の限りを尽くします。悪魔は地上を我が物顔で蔓延り、大地は人と獣の血で赤く染まります。そして、天と地は恐ろしい程の暗黒に支配されるのです! そうなる前に、我らがなにかしらの手だてを打たなくてはなりません…――!」
ローブを纏った者は、主君にそう伝えると深刻な表情で其処に佇んだ。
「お前は何故、そのような事を知っている?」
「ハラリエル様が私にお教えて下さったのです――」
「なんと、それはまことか……!?」
「はい。ハラリエル様の瞳には、この世界が崩壊して滅亡してゆく姿がお見えになったのです。そして、他にも幾つかの予言をなされました…――!」
彼のその言葉にカマエルは息をのんで凍りついた。
「何と言う予期せぬ事だ。ハラリエル様は眠りの予言者。あの方が目覚めるのは滅多にないことだ。不吉な事が起きる予兆かも知れぬぞ……!」
カマエルはそう呟くと、血相をかいて顔が青ざめた。
「息子よ、ドミニオン様にはこの事は何と告げた?」
「――偉大なるドミニオン様は、私の話には耳を傾けようとはしませんでした。大宗主様は、私の言葉は天界に混乱をもたらすと言いました」
彼がそう話すと、カマエルはそこで愕然となった。
「おお、何て事だ! 天界に暗雲の影が迫っているというのに、ドミニオン様は一体何をお考えなのか……!」
カマエルは鎖に繋ぎ止められた牢屋の中で、愕然とため息をついたのだった。そして、沈黙は静かに2人の間に闇をおとした。
「お前の兄達はどうした。元気にしているのか?」
カマエルの質問に、彼は首を横に振って悲しそうに答えた。
「――あの日、貴方様が悪魔に捕らわれてからまもなく経った頃でした。天界は大きな混乱に包まれた所を、悪魔が再びやって来たのです。あの時より敵の数は少なく、我々は勝てる戦いでした。ですが、予期せぬ事に悪魔の王の直属の部下が天界に現れたのです。それも、もっとも醜悪で悪に満ちている者を引き連れての襲来です。そして、そこに現れたのはアスモデウス、ベルフェゴール、ベルゼバブ、サタナエル、そしてベリアルです。彼らの襲来に天界は再び混乱に陥れられました! 天界を我らの血で赤く染めると、悪魔達は我らの血と肉を食らいながら酷い殺戮を繰り返しました。まるであの日の忌まわしき惨劇のようでした。あの者達は、まさしく#獣__ケダモノ__#です! 力を持たない弱き者を殺すことに快楽を感じて楽しんでいるのです! そして、地獄の様な惨状の中、一人の兄はアスモデウスに戦いを挑みました。兄は悪魔と勇敢に戦いました。そして、その戦いで深傷を負った兄は悪魔の前で敗れたのです――! 兄は奇跡的に命は助かったものの、今はラファエル様の宮殿で治療を受けています。もう一人の兄は、悪魔にハラリエル様を人質に捕られ、ハラリエル様を助ける為に身代わりとなって悪魔に捕らわれてしまいました。一番上の兄は悪魔が再び天界に来させない為に、能天使の役目を勤めながら地上でカブリエル様と共に目を光らせております…――!」
彼は一通り話すとカマエルに頭を下げて一礼した。そして、唇を噛みしめると両手の拳を握って深い怒りに満ちたのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
41 / 211