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雷鳴
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雷雨が窓を叩いていた。雷光に照らされ浮き上がる椅子に座り俯く男。私は嘲笑する。
「本当に、血雲を買い取ってしまっていいのかな?」
寝ずで苦渋の判断をしたのであろう、男の目の下には隈ができていた。何にせよこの男は子を売りとばす親だということに変わりはない。
「……構わない」
「部下から聞いたが、どうやら自殺未遂をしたらしいね。君に捨てられると知って絶望したんだろう」
「な……!」
目を見開き私を見る男の目は悲痛な色をしていた。やはりこの男は子を手放すとはいえ人の親なのだろう。
「恨まれても仕方ないことを私はしているのだから後悔はしない。それに、あの子では到底、商家の闇を背負えないだろう」
「確かに、凶手には向かないだろうなぁ。容姿は聞いている通りなら目立ちすぎるし、身体もそんなに強くはないのだろう?日光に弱いというのがそれらしくはあるが」
もちろん、この男の事も、この男の家の事も調べつくしている。没落した零細貴族、というのは表向きで実際は王に刃向かう者を闇に葬る暗殺者を輩出する。一子相伝でありどうやら本家嫡男にしかその技術は継承されていないようだが。
「流石、魔王と呼ばれるだけのことはある」
「前々から商家のことは気になっていてね。それで、暗殺の責務はどうするつもりなのかな?」
この国が生まれる前から、商家はずっとその責務を負ってきた。この男にはほかに子はいないという。一子相伝のその業を、分家の者に継がせるとも考えにくい。
「そろそろ商家はつぶれてしまったほうがいいと、私は考えているよ」
「君が潰すのかい?」
「……そのつもりだ」
絞り出すような声。考えに考え抜いてのことなのだろう。面白くなってきたので少しからかってみる。
「血雲以外の一族を全員葬って?」
「言わせておけば……ッ!」
「君のような切れ者が、ここで流血沙汰など起こさないだろう」
「く……」
殺意でぎらりと光る眼を悔しそうにゆがめ、男は再び俯いた。
「血雲の詩は気に入っているんだ。大切にするよ。商伯修殿」
私が飽きるまでは、と心の内で呟いた。さすがにそれをこの男の前で言ってしまうと私の首が飛んでしまう可能性がある。この男も人の親で、さらに暗殺者なのだから。
「景を……頼みます、鄭仲影殿」
深々と頭を下げる男に、私はにっこりと笑った。
さて、どうするか。男が去って一人になった部屋で、私は思慮をめぐらせていた。
誂えた部屋に運ばせたものの、まだ足を運ぶ気にはなれなかった。部下に調べさせた書簡に目を通す。
血雲、姓は商、名は景、字は伯岐。齢十五になったばかりらしい。性格は内向的で卑屈、どうやら昔あの男が離縁したという母親に虐待されていたことが原因らしい。銀の髪に紅い目、華奢な体つきはまるで女のよう。色狂いなら食指を伸ばすであろう容姿が、母親に虐待された原因なのかもしれない。
「まるで私が色狂いだとでも言いたげじゃないか……」
ひとつ、溜息をつく。確かに私は両性愛者ではあるが、私が買い取ったのは詩人であり男娼ではない。しかし、そんなに美しい容姿をしているのだとするならとても楽しみだ。
ちらりと、正妻の姿が頭をよぎる。見た目は美しいかもしれないが、あの女は私の財産と婚儀を結んだようなものだ。所詮私の傍にいる者達などそんなもの。部下の中でも、私自身に忠誠を誓っているものはどれだけいるやら。
書簡を置いて立ち上がる。さて、そろそろ会いに行こうか……。
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