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紅涙
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「仲影様、だめ……!」
気付けば私は毒と思わしきものを飲もうとする仲影様の手を掴み叫んでいた。解放だなんて、ふざけないでほしい。そんなことをされたら私は見えないあなたに囚われるだけだというのに。
「伯岐……?」
「だめ、だめです、許しません。絶対に、そんなことをしたら、一生私は仲影様を恨んで恨んで恨み続けます」
ぼんやりと私を見る仲影様はまだ、夢の世界にいるらしい。もとはと言えば私のせいだ。けれど、ここまで仲影様が追い詰められているなんて思わなかった。頼りなさげなあの顔に衝撃を受けた。あんなに頼もしく大人の余裕に満ちた仲影様がこんな顔をして、こんな行為にはしるほどに、私は大切な存在になれていたのだろうか。
私が自分を取り戻したのは、おそらく季丹殿の符水のおかげだと思う。
とはいえ、その前の過程の記憶がごっそりと抜けていて、何をしていたのかはさっぱり覚えていないのだが。きっと随分、仲影様を傷つけてしまったに違いない。
気付けば私に縋りついて愛の言葉に同意を求め、口付けを迫る普段の覇気の全くない仲影様が、そこにいたのだ。執着をありありと見せつけられ、胸がいっぱいになる。
そっと、自分から仲影様に抱きついた。信じられないというように私を見る仲影様はきつく抱き締め返してくれた。苦しいと胸を叩けば、あわてて腕を緩められる。
「嗚呼……わたしは夢をみているのかな」
「夢なんかじゃ、ありません」
執着のあまりに己を失いかけている仲影様に届くようにまっすぐな視線で目を見つめる。ずっと一緒にいてほしい、己を失っていた私の影ではなく、私をみてほしい。私を特別な存在だと思ってくれている仲影様に応えたい。
「仲影様、私は、あなたを」
笑いかけると、なぜだか涙が出た。胸がいっぱいになって声が詰まる。それでも、ちゃんと伝えなければいけない。自惚れかもしれないけれど、仲影様に己を取り戻させることができるのは私しかいないのだから。
「あなたを、あなただけを、あいしています」
仲影様の目が大きく見開かれる。信じられないとでもいいたげに開かれた唇に、そっと己のそれを寄せる。触れ合うだけの軽い口付けを交わす。離れようとしたら強く抱き締められ、縋りつくかのように唇を合わせられる。ただそれだけなのにどうしてこうも心臓がうるさいのだろう。
「夢みたいだ。こんな頼りない男を、君は好いてくれているのかい?」
「頼りなくなどないです。仲影様は優しいです」
優しく頭を撫でてくれる仲影様の温かくて大きな手。その手が私の全身を優しく撫でまわす。変な気分になってしまいそうだ。
「伯岐……もういちど言ってくれないか」
「あなたが望むなら、何度でも」
見上げた仲影様の顔はやつれてはいたが、瞳に光をとりもどしつつあった。
「わたしは、仲影様だけを、あいしています」
「私もだよ……私には君しか見えない……。愛しているよ、伯岐」
囁くように告げられた愛の言葉と、息もつかせぬ激しい口付け。熱っぽく見つめ合うが、仲影様は疲労の色濃く溜息をつき苦笑した。
「ごめん、伯岐。眠いんだ。添い寝、してくれないかな」
「喜んで」
離さないようにとぎゅっと私を強く抱き締める仲影様は今まであまり眠っていなかったのだろう。安心したのかすぐに静かな寝息をたてはじめた。
弱いところを見て失望などしない。そんなところまで見せるほどに私を思ってくれていたのが純粋に嬉しい。魔王と呼ばれているとは思えないその安らかな寝顔にそっと唇を重ねて、私も眠ることにした。
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