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出逢い2
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話というほどではなかったし、改めて訊かれると言い出しにくくなった。
そんなおれの様子を察知したのか、ふらりと立ち上がったオヤジはそのまま店の方へ向かった。
すぐに戻ってきたオヤジは瓶ビールを2本手にしていて、1本をおれに差し出してくる。
「オヤジ、おれ今からバイトなんだけど」
「だからどーしたよ。俺の息子ならビールの一本くらいで仕事に支障でないだろうが」
苦笑いを浮かべるおれに、何でもないことのようにいい放つオヤジ。不覚にも『俺の息子』という言葉にグッときてしまう。年を取ると涙腺緩むってホントなんだな。
オヤジに息子と認められるのは、素直に嬉しい。
それは、おれがこの人を人間としても男としても尊敬しているから。
栓の抜けている瓶ビールを、お互いに少しだけ持ち上げて乾杯をした後、ぐいっと飲んだ。
「で?また例の子のことか?」
亮のことは何度か相談していたから、すぐにわかったのだろう。我ながら女々しいし情けない話だが、オヤジに話を聞いてもらうと、どんなことでも自分の中で整理がつけられるようになる。
「このまま好きでいてもさ、絶対におれのとこには来ないだろうなってわかってんだけどなー、なかなか気持ちが切り替わらねえんだよなー」
オヤジは特に何かを言うわけではない。ただ黙ってタバコを吹かしていた。しばらく、おれもオヤジも無言でビールを飲んでいて、それが空になる頃に、ぽつりとオヤジが口を開いた。
「・・・気持ちなんてものはな、変えようって思って変えられるもんじゃねえよ」
当たり前のことを言っているだけなのに、オヤジの言葉はストンとおれの胸に収まる。
「ははっ、それもそーだよな。・・・あー、やっぱオヤジの顔見に来てよかったわ。なんかすっきりした」
心のどこかにも同じようなことを思う気持ちはあったのだろう。けれど、自分以外から言われた言葉だったからこそ価値のあるものに思えた。
そのあと、世間話を少しして、オヤジが仕事を再開させたのをきっかけにおれはその場をあとにした。
帰り際、オフクロが「やっぱりゆうさんはすごいわね!まーくん来たときよりも男前になってるわよ」なんて、わかってんだかよくわからない発言をしていた。
確かに気分はよくなっていて、おれは、足取りも軽くバイト先へと向かった。
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