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覚醒3
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「おい、大丈夫か?」
俺の目の前には、知らない男の顔。
いや、どこかで見たことがある・・・?
声を出したかったが口が乾いて、何も発することができない。唾を飲み込もうとして失敗したのを見て、男がストローを差し出してくれる。
それを口に含んで、すぐさきほどの痛みを思い出して、ほんの僅かだけ吸い込んだ。唇が潤うくらいでも、かなり口の乾きは楽になる。男はもう飲まないのか、と不思議そうな顔をしていて、どちらかと言えば強面の顔が妙に幼く見えて、少しだけ気が緩む。
「ここ、どこ・・・?あんたは・・・?」
俺が尋ねた途端に眉をひそめた男にヒヤッとしたが、気分を害した訳ではないようだ。
「お前は覚えてないんだろうけど、ここはおれん家だ。んで、お前はおれが助けて病院へ運んだ、だからここにいる」
ぶっきらぼうなほど簡潔な説明。だけど、今の状態の俺には、長々と説明されたところで、どうせ全ては理解できなかっただろう。病院、というのが小山先生のところだというのは、すぐにわかった。
普通の病院へ連れていかれて、今ここにいるはずはない。それくらいの状態だということは、自分がよくわかっている。
小山先生は、田中が取引している医師だ。もぐりの医師だと紹介されたけど、ちゃんと医師免許も持っているし、自分の病院もある。ただ、裏で保険の効かない人間を治療している、そういうことらしい。
まだ、売りを始めたばかりの頃、客の扱いや自分の体の準備が要領よくできなくて、何度も小山先生に治療してもらっていた。俺だけじゃなく、他にも同じような仕事をしている若い男女が何人も来ていた。腕はいい、よくそう聞いた。
ただ、小山先生のところでは入院はできない。どんな酷い状態でも、治療が終われば帰される。一人で帰れなければ、連れてきた人間が連れ帰る。それがルールなのだとも聞いていた。
この男は、たまたま俺に出くわして、不幸にも俺を押し付けられたのだろう。
申し訳ない気持ちもあるが、出ていこうにも出ていける状態ではない。厚顔なフリでこのまましばらくは面倒を見てもらおう、そう勝手に決める。
「めいわく、かけてる、な・・・」
それでも罪悪感なのか、口は自然に謝るような口調になっていた。
それを察したのか、男は俺の頭をくしゃっと触ると、ぶっきらぼうに言葉を放った。
「絶対安静なんだとよ。いいから、気にせず寝とけ」
体に触れられたことで、一瞬体が痛みと恐怖で強張ったが、想像していた痛みが来ることはなく、拍子抜けしたのと同時に恐怖もなくなってしまう。
きっと、俺の怪我のない部分を選んで触ったのだろうと思うと、ただのがさつな男に見えていたが、実は意外と優しいのかもしれないと思った。
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