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11年後②~パラレルペダル箱学編R18腐弱虫ペダル二次創作
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草レースを見に行った。
草レースじゃない。
れっきとしたそれなりの大会だ。
だが十年の歳月は、箱学自転車競技部を、そんじょそこらの一般校に落としていた。
県内六位。
県内で六位。
全国どころじゃないじゃないか。
走りのセンスは悪くない。
けど、あれだ。
何が決定的なものが欠けている。
勝利に対する執念‥か…
そんなの昔の箱学には、掃いて捨てるほど転がってたのに…
でも一人、熱い走りをするやつがいた。
一年生か…
小柄で、荒削りだけど、磨けば光りそうな…
乗ってるバイクはジャイアント。
福富さんが使ってた奴だ。
脚質からするとオールラウンダー…
山は得意じゃなさそうだ。
小柄でオールラウンダーで、山が得意だったら鳴子君だよな。
髪も赤だし…
思わず笑い出しそうになってから、はっとなる。
こいつか…
面差しが母親にそっくりだ。
その子~杉森良という~は、チームを引っぱり続け、順位も二つ上げたけど、ついに箱学はトップを獲れなかった。
急ぎ足でその場を離れる。
次の祭礼の地割りもある。
こんなところに来ている暇なんかない。
だが、自転車は早かった。
「待ってください!」
駐車場まで辿り着いたところで、僕は杉森に追いつかれてしまった。
「泉田塔一郎さんですよね! OBの」
まだ幼さの残る声が近づいてくる。
声、と言ったのは、振り向いていないから。
振り向きたいわけがなかった。
十年経つから当時は六才。
避けられたろう!
自力で!
振り向いたら怒鳴ってしまう、こんな子どもに。
仮にも新開さんが救った命だ。
それだけはしたくなかった。
声は二メートルくらい後ろで移動しなくなった。
「僕と…話したくない気持ちはわかります。だから…一言だけ。命を」
声はひどく震えている。
「助けていただいて…ありがとうございました。あの方には、遠く及ばないけど、俺、自転車続けます。あの方の…分まで走ります! いらん事だと思われても…走ります! それから!」
全然一言じゃないじゃないか。
何かいろいろ言っている。
茶番だ。
これで僕が、泣いて許すとでも?
許…
斧川さんとこへすっ飛んで行った。
抱いてくれ。
めちゃめちゃにしてくれ。
何も考えたくないんだ。
お願いだ。
あろうことか斧川さんのご自宅へ押しかけ、姐さんに直接聞いた。
会長どこです!
今すぐ会いたいんです!
姐さんは豊満な感じの中年女性で、この十年の関係で、僕のことをひどく憎んでいる。
でもその彼女が戸惑うほど、僕は動揺していたようだ。
「タマエのとこだよ。きのうから泊ってる」
「押しかけて行ったらまずいすかね」
「愛人どうしハチ合わせてどうすんだい。だいたいそれを正妻のアタシに聞くって料簡が、ちょい! 泉田! 泉田!」
僕はタマエさんのところ急いだ。
姐さんから電話があったみたいで、斧川さんは僕を待っていた。
「どうしたんだ塔一郎。芙美のとこで聞いてきたっておい!」
構わずに僕は会長に抱きついた。
タマエさんが金切声を上げる。
「やめてよ泉田! ここどこだと思ってんのよ! うちでやんないでよばか! ちょっと!!」
強引に押し倒したものの、会長は親みたいに、優しく僕を抱き返すばかりだ。
「俺も十年分年とってるんだ。きのうのきょうじゃビンビンにゃならねえ。どうした泉田。いったい何があったんだ」
答られなかった。
これはあくまで自分の問題だ。
自分だけの…
自分のマンションに戻った。
いつもならつかない匂いが背広についていた。
姐さんとこの麝香系の、強い香水の匂い。
タマエさんとこのシトラス系の、どちらかというと男性の好む爽やか系の匂い。
声も少し低かった。
もしかするとタマエさんは、ニューハーフだったのかもしれない。
僕は会長にまで置いていかれるのだろうか?
シャワー浴びて、地割りに行く。
頭でわかっているのに、躰がついて行かない。
革のソファに身を任せ、ただただ天井をみつめている。
脱ぎ捨てた背広が足に当たるのを、だらしなく蹴り落とす。
ポケットから、何かポロッと落ちた。
手紙。
かなり前に預かったのだろう。
かなりヨレてしまっている。
総北のOBの人から預りました。
髪テンパーで長いのゆるく束ねてて、名前は確か手嶋さんて…
いつか絶対かれは見にくるから、その時にでも渡してやってくれ?
何で絶対なんて言えるんだ。
総北史上最弱の主将。
僕にいったい何の用だ。
自分を切りつけたくなるような、鋭すぎるペーパーナイフを手に取り、僕はそれを開封した。
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