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-黒澤side22-
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病院に搬送された玉置は、早い処置のおかげで一命を取り留めた。診断の結果は熱中症。…あともう少し遅かったら危なかったかもしれないと医師に告げられ、俺は握っている手が震えた。
校長に確認をとると、冷房がついていなかったのはクーラー自体の故障だったようで、玉置はそれを我慢して絵を描いていたらしい。…おそらく藤岡先生には、誰にも気づかれないようにと強く言われていたのだろう。カーテンも窓も閉め切られたその部屋は扇風機が1台あるのみで、5分いるだけでも気分が悪くなりそうだった。
「クロちゃん?明ちゃんの家族さんに連絡がついたけど、今海外旅行中みたいなの。症状の重さから見ても1人にさせるのは危険だから、一週間は入院で絶対安静ってことになったわ。」
「…わかりました。ありがとうございます。」
汗で濡れた髪をタオルで拭いてやっていると、玉置の長い睫毛が少し揺れて、目はゆっくりと開いた。
「…た、玉置?わかるか?玉置?」
「……おん、ちゃん、先生?……白鳥、先生も。」
「…っ玉置!……良かったっ。」
思わず握っていた手に顔を突っ伏すと、白鳥先生はホッとため息をついて俺の頭をポンと叩いた。
「もー情けないわね、病人相手に。」
「……あ、あの、僕は。」
まだぼんやりとした声で、玉置は辺りを見渡している。…どうやら倒れた時の事は覚えていないらしい。
「明ちゃんね、熱中症で倒れて、まだ高い熱があるの。家族さんには連絡したから、安心してゆっくり休みなさい?あと、クロちゃんもよろしく。」
「白鳥先生……あの、ありがとうございました。」
「いいのよ気にしないで~これが私の仕事だからっ。じゃあ私はそろそろ帰るわね~?」
しっかりしなさいよ、と白鳥先生は俺の背中を叩くと、病室を出ていった。
「……あの、おんちゃん、先生?ごめんなさい、迷惑かけて。」
「……馬鹿野郎。」
「ご…ごめんなさ…」
「なんで我慢ばっかするんだよ!?……お前、もう少し遅かったら死んでたかもしんねぇんだぞ!?…俺、お前に何か…あったら……っ。」
病人を困らせてどうすんだ、と心ではわかっていても、感情制御は不可能だった。まだ熱で熱い手を両手で包み込むと、玉置は弱く握り返してくれた。
「心配かけてごめんなさい。本当に、ごめんなさい。」
「いや、謝るのは俺の方だ。もっと早く気がついてやれてたらこんな事には。…藤岡先生の事も、全部。」
俺が藤岡先生の部屋に入ってきたことを思い出したのか、玉置はハッとした顔で俺の方を見た。
「……お前がどんなに藤岡先生のことが好きでも、大切な存在でも、俺はあの人を絶対に許さない。お前をこんなに苦しめて……教師辞めてでもボッコボコにぶん殴ってやる。」
「それはダメです……!」
「お前はなんでそこまで庇うんだよ!?…あいつのせいで死にかけたんだぞ!?」
「違います!!……違うんです。おんちゃん先生が居たから、おんちゃん先生がいつも声をかけてくれたから、僕は笑っていられたんです。…だから、教師を辞めるなんて…そんな悲しいこと、言わないで下さい。」
玉置は縋りつくように俺の手につかまって、同じように声を荒らげた。……こいつがこんなに声を挙げるのは初めてだ。玉置は力なくもう一度ベッドに戻ると、目をつぶって呼吸を整えた。
「大丈夫か?……すまない、大声出して。お前、まだ熱あんのにな。落ち着いてから話そう。……何か欲しいものはないか?」
「ごめんなさい…まだ少し、頭が痛いし、気持ちが悪くて。」
とても何かを口に出来そうな状態ではなく、まだまだ終わりそうにない点滴をぼんやりと見つめていた。
「そうか。じゃあもう少し寝てろ。家族はすぐ来れねぇみてぇだし、明日は仕事が休みだから、そばに居させてくれ。」
「で、でも…」
「いいから。……俺が、離れたくないんだ。」
「……おんちゃん、先生」
片方の手を握ったままそっと頭を撫でると、玉置は優しく微笑んで、気持ちがいいのかウトウトし始めた。
「ずっと手握っててやるから、ちょっとでもしんどくなったらすぐ起こせよ?」
「で、でも…これじゃおんちゃん先生が眠れない……。」
「大丈夫。俺はどこでも寝れるから。今は何も考えるな。」
「……ありがとう、ございま、す。」
スーッと意識が遠のく玉置に一瞬不安になったが、呼吸は落ち着いて、眉間の皺もなくなっていた。……少しでも楽になったのなら良かった。
「……あんなに誰かを失うのが怖いと思ったのは初めてだよ、玉置。」
ホッとした俺も段々と睡魔に襲われて、そう呟くと玉置の手を握ったまま、ベッドサイドで眠りに落ちた。
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