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-黒澤side23-
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あれからどれくらい眠っていただろうか。うっすらと部屋の外から看護師や医師の声が聞こえてそっと目を開けると、俺は玉置のベッドで突っ伏していた。……身体がいてぇ。
「あれ…玉置?」
バキバキの身体を徐に起こすと、ベッドには玉置の姿がなく、俺は飛び起きた。
それと同時に病室のドアが開いて、点滴を引いて歩く玉置の姿があった。
「おんちゃん先生おはようございます。……すみません、そんな所で寝かせてしまって……。」
「ばっ……馬鹿かお前は!大丈夫なのか!?なんかあったら起こせって言ったのに!!」
「大丈夫ですよ。少しお手洗いに行っただけです。…お陰様で熱もだいぶ下がりました。ありがとうございます。」
そう言うと玉置はいつものように困ったような優しい顔で笑った。
「でもまだ熱あんだろ?……ん、ほらまだ熱い。」
「お、おんちゃん先生っ…近っ…。」
「あっ……す、すまん!」
「はっ!僕、僕こそごめんなさい嫌とかじゃなくて慣れてなくてそのっ……!」
おでこを手で触って凡その熱を計っていると、自分でも無意識なほど顔が近く、なんだか気まずい雰囲気になった。…玉置も心做しか顔を赤らめていて、なにか話さなければと思い切って声をかけた。
「「あのっ…!」」
「な、なんだ?」
「いやっ……その、おんちゃん先生から。」
声を揃えてまた嫌な間が出来てしまったが、お互いに話したい事は同じだろうと悟ったため思い切って本題に移った。
「とりあえずベッドに座れ。…藤岡先生のこと、ちゃんと聞きたい。…話せるか?」
「……はい。」
最初は躊躇するように俯いていたが、玉置は下唇を噛んで何かを決心したのか、真っ直ぐ俺の目を見て話し始めた。
「僕が高校1年の時、担任が藤岡先生でした。元々絵が好きで、画家としての藤岡先生の事もよく知っていたので、迷わず美術部に入部したんです。」
「ガキの頃から描いてたって言ってたもんな。」
「はい。それから有難いことに色んなコンクールで入賞して、その度に藤岡先生は自慢の生徒だと話してくれました。…でも、それがきっかけで、僕は美術部内で嫌がらせを受けて。学校に行くのが怖くなりました。」
思い出すだけでも怖くて、と手を震わす玉置の手をそっと握ると、深呼吸をして話を続けた。
「そんな時、藤岡先生が、部屋に来て好きに絵を描きなさい。私は君の味方だ。…と言ってくれて、とても救われたんです。厳格な藤岡先生が傍にいた事もあって、それから嫌がらせもなくなりました。その事は本当に感謝しています。」
「その話は白鳥先生から聞いていたが、本当のことだったんだな。」
強くうなづいて、玉置は辛そうに俯いた。
「ちょうど同じ頃でしょうか。藤岡先生が緑内障で、色彩感覚が鈍くなってきていると話を聞いたんです。…進行性の病気だから、いつか失明するとも。僕は凄くショックで、何か力になれたらと…藤岡先生が描いた絵の微妙な色彩調整をするようになったのが事の始まりだったんです。」
インターネットで緑内障疑惑と書かれていた事は、どうやら紛れもない事実だったらしい。今も眼鏡をかけているが、いつも目を細めて物を見ていることは知っていた。…有名な画家様がまさか、と思っていたが。神様は残酷だ。
「私の右腕になって欲しい。…そう言われて、僕は3年間ずっと、藤岡先生の代わりに絵を描いてきました。藤岡先生の右腕にはなれたけど、僕の絵がコンクールで評価される度に藤岡先生と作風が似ていると言われるようになって…。」
「…俺もお前に言ったことあるよな。すまない……何も知らなくて。」
それに気づいてくれた時は、よく見ていてくれているんだと純粋に嬉しかったんですよ。と玉置は嬉しそうに微笑んだ。
「僕は、僕にしか描けない絵を描きたい。……本当はずっと、おんちゃん先生に聞いて欲しかった。交換日記ならいいかと、相談しようかと悩んだこともありました。…でもそれすら藤岡先生に勘繰られて、おんちゃん先生に近づくなと言われていたんです。」
…人間の欲とか罪悪感ってもんは、当たり前になると段々鈍ってきて恐ろしいもんだ。
「理由はともあれ、やってる事は犯罪行為だ。言い方が悪いが、お前の絵であいつは収益を得ているんだからな。優しい玉置につけ込んだのは決して許されないことだ。…本当はボッコボコにしてやりてぇとこだが、お前が嫌がる事はしねぇ。」
「おんちゃん先生……。」
「真実を世間に公表するべきだと思う。このままじゃあの人の絵が好きな人にも、お前にもプラスにならない。本人に頼んでも公表してくれねぇのはわかってるから、ちょっと手荒な手段使ってでも俺が証拠を集める。」
「手荒な手段って……?」
「お前は何も心配するな。…きっと上手くやるから、今は自分のことだけ考えてしっかり療養しろ。わかったな?」
はい、と何度も頷くと、玉置の方から俺の手を取ってギュッと強く握った。
「おんちゃん先生…っ。今まで失礼な態度をとってたこと、本当にごめんなさい。嫌われちゃったかなって……ずっとずっと怖くて。」
「馬鹿かお前は……それはこっちのセリフだっての。…しつこく藤岡先生のこと探り入れて、ぜってーウザイ奴だと思われてるって思ってた。」
「そんな…!僕はずっとおんちゃん先生の事がす……っ。」
そこまで言うと、玉置はしまった…といった表情をして、茹で蛸のように顔を真っ赤にした。
……おい、今のって……今のって……。
いかんいかん、こいつは男だ冷静になれ……ましてや生徒だなんて。
段々バクバクと早くなる心臓を無理やり無視して、目の前でパニクる玉置をベッドに寝かせた。
「お、お前また熱上がってきてんじゃねぇか!?……ほら、ちゃんと休んどけ。」
「……は、はいっ。あのっ、本当に本当に、ありがとうございます。」
「教師として当たり前のことをしてるだけだよ。……お前の絵、お前だけの絵、絶対に描かせてやるからな。」
恥ずかしさを紛らわすようにそっと玉置の頭を撫でると、俺は気合を入れて立ち上がった。
「……んじゃ、ちょっくら行ってくる。」
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