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真実 奏里side
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スマホが着信を告げ、正座のせいで大きく開いたポケットから落ちる。
何となく内容はわかっていたが、仕方なく電話に出た。
「…もしもし」
『…奏太が、目を覚ました』
「そっか、良かった」
『…良くねえよ。
あいつ、何も覚えてない。
昼休みに北村が訪ねてきたところから、すっかり記憶が抜けてる』
「…あーあ、やっぱり、か」
『んなっ…!
やっぱりって、お前、わかってたのか!?』
「…あはは」
『おい、どういうことだ!
説明しろよ!!』
「いいよ。
どうせ、さっきそのうち話すって言ったことだしね」
『…西川が来る直前のときのことか?』
「そうだよ。
あのね、お兄ちゃんは…都合の悪いことは、ぜーんぶ忘れちゃうの」
『…全部?』
「ぜんぶだよ。
…元々はね、お兄ちゃんがシロカワを継ぐ予定だったんだ。
でも、お兄ちゃんは優しすぎた。
シロカワのやることに耐えられないということは簡単に想像できた。
だから辛いことも楽しいことも、全部、シロカワにとって都合が悪ければ頭から消しされるようにしたんだよ…。
お兄ちゃんと、あたしと、お父様でね」
『…!!』
「…ごめん」
そう言って、通話終了ボタンを押した。
つつ、と頬を涙が流れて、畳にシミをつくる。
…最後、声、震えちゃったな。
ぐいっと涙を拭って、目の前にいる人に向き合った。
そこにいるのは、がっしりとした体躯の、40そこそこの男性。
…私の、私たちの、父親。
「…きいたでしょう?
これが、私たちの罪です」
「…それを言われると、返す言葉がない。
本当に…悪いことをした」
「…だから、入れ替わり、続けさせて下さい。
お願い致します」
頭を下げて、額を畳に擦り付ける。
「…あの子が、奏太を変えられるという保証はあるのか?」
「わかりません。でも、信じたい」
「…そうか」
「お願いです…っ!」
一層強く額を擦り付けると、ため息が聞こえた。
「…顔を上げてくれ」
「…はい」
「…あの子の父親として、こちらからもよろしく頼む」
「…!! それじゃあ」
「シロカワとしても、最大限の協力をしよう。
学校の外では護衛をつける。
他にも、何でも言ってくれ」
「お父さん…!!ありがとう…っ」
「…奏太を、頼んだぞ」
この場にいない人間に言うようにそう呟く父親の目には、涙が光っていた。
このときあたしは、お父様の涙を生まれて初めて見た。
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