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謝罪
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春くんが病室を出て行ってから、奏里はいつにない真剣な顔つきで僕を見た。
なんだろう…?
緊張してしまう。
「お兄ちゃん」
「な、なに…?」
「あたしね、お兄ちゃんに謝らなくちゃならないんだ」
「…?」
「さっきの話は、もう呑み込めたかな?
シロカワ組っていうのを、次はあたしが継ぐことになってるって言ったよね?
まず一つ目は、あたしがシロカワの次期当主であることに嫉妬した北村がお兄ちゃんを襲ったってこと。
本当に、ごめんね…。
あたしのしわ寄せが、お兄ちゃんにいくことになっちゃった。
考えが足りなかったよ」
「そうだったんだ…、北村さんのお父さんが奏里のことを可愛がるから嫉妬したって聞いてたけど」
「それも事実、かな。両方本当。
ふふ、北村もかわいいとこあんじゃんってかんじだよねぇ」
「そうだね」
かわいらしく笑う奏里につられて、僕も笑う。
「もう一つ。
本当はね、シロカワはお兄ちゃんが継ぐ予定だったんだよ。
お兄ちゃんは覚えてないだろうけどね」
「…ぇ、」
「でも、お兄ちゃんは優しいから。
優しすぎて、弱いから。
お兄ちゃんはあたしたちのやることに耐えられないって、お父さんとあたしで考えたの。
だから、お兄ちゃんを」
そこで、奏里は一度深呼吸した。
「…お兄ちゃん自身が、記憶を自由に忘れられるようにしたんだ」
その言葉は、僕にはあまり理解できなかった。
「…どういうこと?」
「…お兄ちゃんにとって忘れたい記憶ができたなら、それを忘れられるように育てたの。
軽い、催眠みたいなものかな?
だから、お兄ちゃんは今回のことも忘れちゃったんだよ。
…本当に、ごめんなさい。」
そう聞けば、すとんと納得いくようなこともあった。
今回のように、何かした覚えもないのにいつの間にか病院にいたり。
幼稚園までの記憶が丸々なかったり。
「…どうして、奏里が継ぐことになったの?」
「とある事件が起こって、お兄ちゃんを当主にするのはやめた。
前にこの病院に入院することになったときの事だよ」
「あれは、転んだって…」
「転んだだけで、あんなに顔にアザができるわけないでしょう。
…でも、詳しくは言えない。
お兄ちゃん自身に思い出して欲しいから」
「僕、自身に…」
「そう、お兄ちゃん自身に。
これはあたしの考えだけど…、
お兄ちゃんは、まだ弱いんだと思う。
弱いから。
全ての記憶を思い出すと心が壊れちゃうから。
だから無意識に思い出すことを避けてるんじゃないかなあ」
「よわい、」
「あくまでもあたしの考えだよ。
でも、今回の件も含めて、あたしがお兄ちゃんに思い出して欲しい…いや、お兄ちゃん自身のために思い出さなきゃいけない記憶は三つ。
全部、辛い記憶だと思う。
でもね、お兄ちゃんが強くなって、それを乗り越えられそうになったら、自然と思い出すと思うんだ」
奏里は、優しい笑顔で、僕に問いかけた。
「ところでお兄ちゃん。
お兄ちゃんは、人を強くするものって何だと思う?」
人を、強くするもの…?
「えっと、努力、とか?」
「それもあるけどね。不正解!
その答えが出たら、きっと思い出せるよ」
でも、と奏里は続ける。
「…お兄ちゃんは、思い出したいと思ってくれる?」
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