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牽制 3
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暑さの中今日の撮影を乗り切り、旅館へと戻る。
今日は早めに撮影を終え、ロケ班全員で旅館でご飯らしい。大広間を借りてスタッフが集結だ。
「おいしいー!」
横でお刺身に顔を綻ばせている美咲ちゃん。
「ホントだ、うまっ」
新鮮で全然臭みもなくて、甘い。奏にも食べさせてあげたいなー。
食事も終了し、自然解散…という形でひとり、ふたり…と人数が減っていく。
俺も部屋に戻ろうかな、と立ち上がり、何気なく周りに視線を巡らせる。
美咲ちゃんは梁瀬さんの横に移動して、何やら楽しそうに話していた。
その横顔が本当に嬉しそうだ。
梁瀬さんって、どうなんだろう……。
ゲイ?バイ?
と、そんな事を考えながら部屋に戻る。
中に入ると、橋本さんは仕事の電話中。
俺も携帯取り出し、メールの返信。
あ、ねーちゃん髪切ったんだ。
似合ってるよー、と。
一通り返信を済ませ、ぐーーっと伸びをする。
橋本さんはまだお話中だ。
お風呂いこっかな。
浴衣とタオルを持って浴場に向かう。
「あ…梁瀬さん」
「あぁ、日野くん」
脱衣所には梁瀬さんがいた。ちょうど今から服脱ぎますってとこだった。
ペコリと頭を下げ、梁瀬さんの近くに行き、服を脱いでいく。
いや、なんかさ。
知ってる顔なんだから離れたところに行くのも変じゃん?
先輩だし。
……なんか視線感じるんですけど。
気のせいですかね。
「日野くんはモデルやってるだけあって背が高いし、綺麗な体してるね。
筋肉のつき方もいいね」
………。
キレイ?ですか。つき方いいって…。どー反応したら……。
いや、他意はないだろう、うん。
「あ、ありがとう…ございます」
体も洗い終わり、今湯船にのびのびーーーーと浸かって……ません。
横に梁瀬さんがいます。距離がちょっと近くありませんか。
「ここら辺はホテルがないからね。旅館に泊まれるのは嬉しいなぁ」
「そうですね…」
他意のない会話。
ただの、会話。
なのに、緊張する。
それは、時折感じる梁瀬さんの視線のせい。
なんだか品定めされているような…気がするんですけど。
その後も世間話と呼べるような会話が続く。
続く……と思っていたところに、いきなり爆弾が投下された。
「日野くんは奏と付き合ってるのかい?」
「は?」
突然の内容に、固まる。
「この前、夜に街で見かけてね。仲良く二人で歩いていたから…そうなのかなと」
この前…って焼肉食べに行ってたとき?
「いや、あの、別に付き合ってるとかじゃ…っていうか、あの、男同士、ですし…」
とりあえずそう返す。
だって、本人から恋人だったって聞いたわけじゃないし、梁瀬さんが男の人も恋愛対象になるって知ってるわけじゃないし……。
「あれ?知らないのかい?奏と僕が付き合っていたって」
その言葉に、湯の中で拳を握った。
「…いえ、」
「そうなのか。知っていると思っていたよ」
「…奏、さんは、あんまり自分の話をしないんで」
「あぁ、そうだね。彼は聞き役が多い子だから」
僕の話をよく聞いてくれたよ、と笑みを浮かべて話す梁瀬さん。
「奏とは一色くんを通して知り合ったのかい?」
この人は……奏の仕事のことを知ってるのかな…?
知ってるなら、俺が“KANADE”に歌を作ってもらってる事を知ってるはずだし、どんな繋がりか分かってるはずだ。
わざわざそんな質問するってことは…知らない?
それとも、逆に俺が“KANADE”の正体を知らないと思ってる…かだな。
…どっちにしろ、社長を通してってことにしとこう。
「はい、事務所に来てたところに出くわして…意気投合して友達になったんです」
「そうか、“友達”…ね」
“友達”の部分に含みを込めた言い方。
「奏とは三年前に別れてしまってね。
まぁ僕が忙しすぎて奏をないがしろにしてしまったからなんだけど…。
僕は寄りを戻したいと思ってるんだ。
奏に今、好きな人がいるかどうか…日野くんは知ってるかい?」
「いえ、知りません…」
「そんな話はしないの?“友達”同士で」
薄く笑いながら、俺を見る梁瀬さん。
その瞳に、冷たさを感じた。
――この人は、気づいてる。
俺の、気持ちに。俺が奏を好きなことを。
気づいてて、そんなことを聞いてきてる。
これは――牽制、だ。
奏は僕のだ、だから取るな、と。
「あ、そうか。奏は自分のことをあまり話さないしね。
変な事を聞いてすまないね。こんなことは奏本人に聞くとするよ。
と言っても…電話に出てくれないんだけどね。困ったよ」
奏は、梁瀬さんの電話を無視してるってことで。
無視出来るってことは、奏の携帯には梁瀬さんの番号がちゃんと残ってるってこと…?
それは、未練が、あるから……?
「もし奏に会う事があったら、言っておいてくれないかい?
話だけでも聞いてあげたらって。
友達の言うことなら聞いてくれるかもしれないからさ」
そう言い残して、梁瀬さんは立ち上がり出て行った。
「……クソっ」
バシャンっ……
お湯を叩く。
水しぶきが上がり、降りかかった。
何も、言えなかった。
俺だって、奏が好きだって。
まるで奏の全てを知ってるかのように、余裕を見せるあの人に。
――完全に、呑まれてた。
それが、ひどく、悔しかった。
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