アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
もう一度手をつなごう
-
「おーい、お前また今日も遊べねえのかよ」
「悪ぃな、なつき!なんせ家にはエンジェルたけるが待ってるからな!」
そう言って飛びそうにスキップしながら教室を出て行ったまさとは、俺の親友だ。まさとはいわゆる不良と呼ばれる類に入り、俺もそう。俺たちはいつも連んでバカやって遊んでたんだけど、最近めっきりご無沙汰だ。
原因は、さっきあのバカが口にした『エンジェルたける』とか言うやつのせい。
まさとの父親が、つい最近再婚した。相手の方にも子供がいたらしく、まさとに新しい弟ができた。小学四年生のそいつが、まさとにとってえらいかわいいらしくてあのバカはその新しい弟に夢中なのだ。
「弟なんか、どこがかわいいんだっつうの」
空き缶を蹴り、薄情な親友に悪態をつきながら1人で帰る。あ~あ、ついこないだまではまさととバカばっかりやって超楽しかったのになあ。1人でぶらぶらしたりもするけど、やっぱりなんだか楽しくない。早々に遊びを切り上げて自宅に戻ると、リビングでもくもくとお菓子を食ってるガキを目にして舌打ちした。
それに気付いたガキが、びくりと体を竦ませて恐る恐るこちらを振り返る。
「…お、お帰りなさい」
きょときょとと視線をさまよわせてぼそぼそと挨拶をしたこいつは、海路と言う。俺の、義弟だ。
かいじは俺のオヤジの兄さんの子供で、事故で両親を失った。若干二才だったかいじをオヤジが引き取ってもう八年にもなる。いつからかなんて忘れてしまったけど、俺はこの弟がうっとおしくて仕方がなかった。
「なんだその顔。またいじめられたのかよ」
振り向いたかいじのほっぺが赤く腫れてるのを見て、舌打ちするとかいじは自分の頬をそっと隠して俯いた。
かいじはどちらかと言うとぽっちゃりした体型で、いつもおどおどしてる。そのせいか学校でよくいじめられているようだった。対して俺はいわゆる美形と言われる部類で、体だって喧嘩のせいかなかなかに引き締まってるほうだ。
自分とあまりにも違う弟のビジュアルに苛立ちがつのる。
「てめえみてえなグズが弟だなんてやってらんねえよ」
俯いて情けなく眉を下げるかいじをバカにして鼻で笑い、俺は自分の部屋へ向かった。
前に一度だけ、まさとの弟を見たことがある。色白で、大きな目に華奢な体つき。ぷるりとした桃色の唇で上目遣いではにかんで微笑むたけるくんは、まるで女の子のようだった。
そりゃエンジェルとか言いたくなるよな。
ふと先ほど見た自分の弟を思い出してげんなりする。
「俺もたけるくんみたいな弟なら欲しかったっつの」
ベッドに転がり、大きくひとつため息をついた。
「なつき!あんた今日、かいじの服買いに連れて行ってあげてよ!」
次の日の朝、母さんがかいじのズボンがきつくなってるのを見て俺に言った。俺がこいつを連れて買い物にだって?冗談じゃねえ!
「んだよ、母さんが行けばいいだろ!」
「母さん今日残業なのよ!あんた無駄におしゃれなんだし、かわいい弟のためにコーディネートしてあげてよ」
「かわいくなんかねえよ。そんなデブ、何着ても似合わねえんだから買う必要なんかねえだろ」
「なつき!」
母さんに睨まれて思わず目をそらす。母さんは実は元ヤンだ。本気出されたら勝てねえ。
「わかったよ」
俺は仕方なしに、放課後かいじと買い物に行くことにした。
学校が終わって、まさとがたけるくんを迎えに行くのに同じ様に俺も小学校へ向かう。
途中で『俺のたけるに惚れるなよ』だのなんだのうるさいまさとにうんざりしながらてきとーに返事すると、まさとがとんでもないことを言い出した。
「まあお前にはかわいいかいじくんがいるもんな。他に目移りなんかしねーか」
「は!?」
かいじがかわいいだって?こいつ目がおかしいんじゃねえか?
「え?だってお前…ってたぁあけえるうう!おかえりいいい!」
話の途中でたけるくんがやってきて、まさとはすぐにそっちに夢中になっちまった。なんだってんだ、俺がどうしたって?
変な奴だな、と思いながら校舎の方を向くと、三人くらいのガキに囲まれながらかいじがやってきた。小突かれたりしてる様子からして、あれがかいじをいじめてる奴らだろう。
何をされても悲しそうに俯くだけのかいじを見て、いらいらが募る。
「おい、かいじ」
俺が声をかけるとかいじを囲んでいた奴らはやべえ、って顔をして逃げていった。
「ちっ、行くぞ」
俺の顔を見て少しほっとしたように情けなく眉を下げたかいじにそう告げるとさっさと先を歩く。かいじは無言で置いて行かれないように必死に後をついてきた。
「なんでお前やりかえさないわけ」
「…」
さっきの光景を思い出していらいらして、信号待ちの時にかいじに言うとかいじは困ったように眉を下げた。
「…しんいちくんたちは、友だちだから」
「はっ、殴ったりこづいたりすんのが友だちか」
バカじゃねえのか。だからあんなにからかわれんだよ。
「で、でも、優しいときもあるんだよ。それに、すごく皆寂しがり屋で。いつも僕のお腹とか触りながら、『落ち着く』とか、『ほかの奴にやらせるなよ』とか言って抱きついたりしてくるんだよ」
「はああ!?」
「僕に触ってないと、なんだか寂しいんだって。」
あいつら、かいじが優しいのに漬け込んでそんなことしてやがんのか!
許せねえ、と怒りを覚えてはっとする。
…なんで俺、腹立ってんだ?
いやいや、ないないと頭を振って信号を渡る。
そんなわけない。この俺が、かいじにほかの奴がちょっかいかけられたり触られたりしてることに腹が立つのはやり返さないこいつが情けなくてそう思うだけだ。
なんだか無性にかいじに腹が立って、振り返りもせずにより一層早足で歩いてやった。
ふと気がつくと、俺の後ろにいたはずのかいじの姿がなくてしまったと思った。早く歩きすぎたか。母さんにバレたら怒られる、とかいじを探しに行こうとしたらバカっぽい三人組の不良が道を塞いだ。
「おーっと、仲本なつき~。こないだは世話んなったなあ?」
「俺たちお前のこと探してたんだぜ~。ちょっと付き合えよ」
そう言って俺の腕を無理矢理引っ張り、路地裏に連れて行く。めんどくさいことになった。こいつらは、ちょっと前にまさとと連んでいたときに喧嘩を売ってきた二人組だ。恐らく俺が1人なのと、自分たちに今日は仲間が1人増えているのとで仕返しをするつもりなんだろう。
かいじがいなくてよかった、とほっとしているといきなり殴りかかられた。
「ちょっといい面してるからって調子にのんなよ!」
「こないだやられた分倍にして返してやるからな!」
初めのせりふは完全にただのやっかみじゃねーか。
やり返す暇もなく、寄ってたかって袋にされる。ふと入ってきた路地裏の入り口をみると、かいじが青い顔をして立っていた。ばかやろ、何見てんだ。とっとと逃げろ。
やつらにバレないように顎でしゃくって行け、と促したのにかいじは逆になんとこちらに向かって走ってきた。
「う、うわああああ!」
「うわっ、なんだこいつ!」
大きな声で叫び両手をぐるぐる回しながら、俺を囲んでいる奴らに飛びかかる。
「お、お兄ちゃんをいじめるなあ!うわああん、わああああん!」
「な、なんだこのガキ!」
「オラア!かいじに手ぇ出すんじゃねえよ!」
バカの1人がかいじを殴ろうとしているのに気がついて、勢いよく立ち上がりそいつを殴る。
「こい!」
目の前が開けた一瞬の隙をついて、かいじの手を引き逃げ出した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 3