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好きなひと 1
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「要、ほれ」
「ありがと、センセイ」
差し出された、あったかいカフェオレが入った白いマグを受け取る。
目に映るのは白いカーテン、白い天井、白いシーツ。
白で埋め尽くされるここは、もちろん保健室だ。
そして、目の前にいる、白衣を身にまとったセンセイ。
この人は、俺の、好きなヒト。
だけどこの想いは、届かない。
──先生と生徒だから?
それも、ある。
だけど、それ以前に──この人にとって俺は”代わり”にしかならないから。
俺、という個人は、きっと見てもらえないから。
あったかいカフェオレをふーふーとしていると、視線を感じた。
──きっと、優しく、慈しむような……それでいて悲しみのこもった瞳をしているんだろう。
そして俺はいつものように気づかないフリ。
少し冷めたカフェオレを一口飲んだ。
ベッドに軽く腰掛けながら、窓の外を眺める……フリをする。
俺に集中する視線がようやくはずれた気がして、気づかれないよう小さく息を吐き出す。
ギッっと椅子が回転する音がして、窓の外へと向けていた視線を前へと戻した。
目に映るのは、センセイの背中。
椅子に座り机に向かう後ろ姿をじっと見る。
──あの頃、眺めていた後ろ姿と、何にも変わってない。
少し焼けた肌、切れ長の意志の強そうな瞳、少し長めの茶色い髪。
一見チャラそうだが、実は真面目で熱い男。
細身に見えるが実はしっかりとした体つき。
あの頃よりも大人の魅力が増し、そこはかとなく漂う色気。
センセイに想いを寄せている生徒は少なくない。
現に数回、生徒から告白されている現場を目撃している。
男が男に想いを寄せることは、この学園では珍しいことではない。
私立青藍(セイラン)学園。
都市部に建っているとは思えないほどの規模を有し、通うのは良家の子息ばかりの全寮制男子校。
俺の一族も会社経営をしていて、まぁ裕福な暮らしをしている部類に入るだろう。
この学園に通う大多数は、同性も恋愛の対象になる。
元々そうなのか、または周りに感化されてなのか……。
俺はどうなのか、と聞かれれば、答えに少し困ってしまう。
確かに、俺はセンセイが好きだ。
だけど、センセイ以外の同性は考えられない。
初恋は女の子だった。
それからも、気になるといえば女の子ばかり。
だけど、センセイに初めて会った日、俺は無性にこの人に惹かれたんだ。
ただ、眺めるだけの恋だった。
気持ちを伝えるとか、そんな事は出来ない恋だった。
──だってセンセイは、他の人の……兄さんの恋人だったから。
俺には5歳年上の兄さんがいて、すごく仲が良かった。
優しくて、真っ直ぐで、頭も運動神経も良くて、俺の自慢の兄さん。
そんな兄さんが、俺にだけ紹介してくれたのが、センセイ。
……当時センセイは、大学生だったから”先生”じゃないんだけど。
その時俺は中学に入学したばかりで、兄さんよりさらに4歳年上のこの人が、すごく大人見えた。
”要だっけ?よろしくな”
そう話しかけてきて、その人が浮かべたのは──満面の笑み。
この時に俺は恋に落ちたんだと思う。
向日葵みたいな、まぶしい笑顔に。
あの笑顔は、今でも忘れられない。
それから何度か、見かけた。
会えば話しかけてくれたし、俺も”貴明さん、貴明さん”って懐いた。
そして、仲良く寄り添う二人の後ろ姿をいつも眺めていた。
お互いがお互いを見つめる目は、優しくて、暖かくて……。
あぁ、二人の間に入る隙なんて、ないんだな、なんて感じていた。
想い合う二人が眩しくて、羨ましくて。
──少しだけ、胸がイタかった。
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