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ろくでなし 1
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コンビニのビニール袋を抱え、急ぎ足で向かった先。単身者向けマンションの階段を駆け上がる。
二階に着き、そして206のプレートがかかった部屋へと入った。
「遅い」
リビングに顔を出した瞬間、不機嫌さをかもし出しながら放たれたその一言に俺はぐっと唇を噛み締める。
「…ごめんね」
けれどそれに言い返すこともなく素直に謝罪の言葉を投げかけると、目に前の人物はハッ、と息を吐いた。
手に持っていた袋をテーブルに置くと、すぐにそれに手が伸びてくる。
袋からツマミを取り出し、さっそく封を開け食べ出した。
片手にツマミ、片手に日本酒。
わざわざ買いに出たんだから、お礼ぐらい言ってくれても…。
なんて心の中で嘆いてみる。
……この人からお礼の言葉が出るハズないか。
バラエティ番組を見ながらツマミと酒を交互に口に運ぶ男。
ハァ。
目の前の男をチラリと見る。
…ハァ。
二度目のため息とともに身をひるがえし、すでに慣れ親しんでしまったキッチンに向かった。
ここでご飯を作るのは、もう何度目になるのか。
決してそれを強制されるわけじゃない。
むしろ、来なくていいと言われてる。
それでもめげずに来ちゃうのは…やっぱり会いたいから。
この家の主であるあの男。
この男と俺の関係を問われれば……なんて答えたらいいんだろう。
友達?…そんなフランクなもんじゃない。
……恋人かと問われれば、NOだ。
そんな甘い空気は一切ない。……この想いは一方通行だから。
あの男…新見時生(ニイミトキオ)と初めて出会ったのは、何度も通っているバーだった。
そのバーはいわゆるハッテンバと呼ばれる場所で。
ゲイが多く集まる店だ。
物心ついた頃から俺の興味は同性ばかり。
青春真っ只中、自分はおかしいんじゃないかと悩み、中学、高校はひたすら自分の性癖を隠して暮らしてきた。
大学へと進み世界が広がった俺は、ゲイが集まる店…ハッテンバ、というものがあることを知った。
最初はおっかなびっくり、友人に連れて来られて、そこで出会った年上の男性に初めて抱かれた。
それから、そこには頻繁に通うようになった。
中には悪い輩がいることも知った。
付き合いは軽く、浅く。
プライベートは明かさず、一晩の快楽を味わう。
お互いに気に入れば一晩で終わることもないが、でも決して恋人になることはなかった。
本音を言うのなら…恋が、したかった。
だけどこのマイノリティな世界は、そんな簡単に心が通う相手は見つけられない。
みんなここでは、気軽に体を重ねることのできる相手を求めてる。
こんな、自分の体を軽く扱う行為に少しの嫌悪感を抱きながらも、俺はここから抜け出せずにいた。
俺だって……ぬくもりが欲しかったんだ。
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