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願う冬 6
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「っ、時生さん…!」
持っていた荷物を放り投げ、慌てて駆け寄って時生さんの体を抱き止める。
「時生さんっ、大丈夫?」
「…あぁ、すまん。大丈夫だ」
「早くベッドで、」
横になろう?と続けるつもりだったんだ。
だけど急に俺の肩を掴む時生さんの手に力が入って、その力強さにビックリした瞬間時生さんが激しく咳き込んで…俺は、震えた。
「と、きお、さ…、」
咳き込むと同時にボタボタボタ…っと滴る──何か。
口を覆う時生さんの手が、時生さんが着ている薄い青色のパジャマが、白いリノリウムの床が──。
崩れる体、抱き留めきれずに一緒に倒れ込む。
心臓が厭な音をたて、体が震える。
──違う、止まってる場合じゃない、早く……!
床に倒れ込む時生さんの体をどうすることも出来ずに、時生さんの下から這い出てベッド脇にぶら下がっているナースコールを掴もうと手を伸ばす。
こんなときに限ってそれをうまく掴むことが出来ずに、爪の先で数回弾いた後、やっと手のひらに収まったそれを必死で何度も押した。
『はい、新見さん。どう──』
「だ、れか!早く…早く、来てくださ…っ」
何をどう言えばいいのか。
気が動転し混乱した俺はただ、早く来て、と叫ぶしか出来なくて。
バタバタっと駆け込む足音、体を押しのけられて、ペタンと床に尻餅をつく。
看護士さんと先生の声、慌ただしくなる病室。
どこか遠くに響くその音の中、外でお待ちください、という声を拾う。
だけど体が動かなくて、誰かの手に引っ張られ病室の外へと連れ出され、廊下にあるベンチに座らされた。
ふと、自分の手が視界に入る。
手を広げると、そこには濃い色をした──赤。
茶色のコートにもついているそれは、時生さんの血で───はくはくとうまく息が吸えなくなる。
「…と、きお、さ……ぁ、あ……」
ぶるぶると震える手。その赤い色を目に入れたくなくて、ぎゅうっと爪が食い込むほどに握り込んだ。
うそ、いやだ、いや、時生さん─────!
鮮明によみがえる、血を吐く時生さんの姿。
あ、あ、と声にならない音が口から漏れていく。
いやだ、たすけて───。
喪う恐怖に、俺は自分の体を抱きしめて、ぎゅっと目を閉じた。
「遥くんっ!」
見知った声を、耳が拾う。
頭を上げると、険しい顔をした上田さんが駆け寄ってくるところで。
「うえ、だ、さ…」
俺の手とコートを目に留めた上田さんは一瞬目を見開き、そして未だ震える俺を優しく抱きしめてくれる。
「遥くん、大丈夫。大丈夫だから、ね?落ち着いて」
大丈夫、と繰り返し囁き、背中を撫でてくれる。
それでも俺の体はカタカタと震え続け、瞼には赤い色がこびりついていた────。
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