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願う冬 7
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時生さんが運ばれていってからどのくらい時間が経ったのか。
静けさを取り戻した病室の前、ただ床を見つめ続けていると上田さんが優しく肩を叩いた。
「とりあえず、手、洗おう。遥くん」
真っ赤に染まった両手を握られて、俺は力なく頷いてコートを上田さんに預けてから洗面所に向かった。
勢いよく流れる水、流れ落ちていく赤。それを見つめているうちにジワリと目が熱くなったけど、必死でこらえる。
病室の前に戻ると上田さんはいなくて、またベンチに座って、また床を見つめていた。
病気は治ったんじゃないか、なんて。
このままいけば、時生さんは元の生活に戻れるんじゃないか、なんて。
もっと、たくさん、ずっと長く一緒にいられるんじゃないか、なんて。
呑気にそんなことを考えていた自分は、なんて傲慢なんだろう。
ずっと時生さんは……闘っていたのに。
自分で自分が許せなくて、きつく歯を食いしばる。
「遥くん」
上田さんの呼びかけにハッと顔を上げると、上田さんはわずかながら笑みを浮かべた。
「時生、もう大丈夫だって」
大丈夫。その言葉に、体から力が抜ける。
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