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he is a only…
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「やあ」
声を掛けられれば
「やあ、元気してる!?」
と答える。
ただそれだけ。
僕らは、同じ水槽を泳ぐ魚。
今夜もすれ違うだけで、お互い名前すら知らない。
お客がつけば、ソチラへ貼り付けた笑顔を向けて。
―うまくやれよ。
小さく目くばせしあう。
そうやって、また1日、夜を越える。
故郷を捨て
傷を抱え
詮索されたくないものなんて、どこにも無いかのように明るく振る舞う。
―無事なら、いい。
このまま、ずっといられるなら…。
でも、そんな日は長く続かなかった。
彼は姿を消し
イヤな噂が広まった。
そしてある夜。
お客に連れられて行ったクラブで、鎖に繋がれた彼を見た。
ドロドロに汚されて、部屋の隅に蹲る…。
僕は必死で彼から目を逸らし、言い繕ってその場からお客を連れ出した。
そして、その夜は逃げるようにして部屋に帰った。
―まさか、あんなになってるなんて…
彼の事を思うと泣けてきた。
でも、僕には何も出来ない。
誰かを助けられるような余裕も、覚悟も無い。
それに。
彼だって僕に助けて欲しいだなんて、これっぽちも思ってないだろう。
―だからって、見過ごせない。
こんな時、どうすれば良いんだろう?
一晩中考えてみたけど、解らない。
翌朝。
彼を見たクラブの近くまで行ってみた。
恐る恐る、路地裏を覗く僕の腕を誰かが掴んだ。
―っ?!
飛び上がった僕を見て、クスクス笑う声がした。
「ねぇ、何してるの?」
着ている物こそ違えど、間違いない。彼だった。
朝の光の中で出会った彼は、あの夜みた彼とは全く別人みたいに、思えた。
「べ、別に何も…。」
「そう?だったら、早く行った方が良いよ。此処はキミみたいなコには似合わない街だから。」
「あ、うん。」
頷いてしまってから、キマリが悪くなった僕は俯いた。
「その袋って、もしかして。」
彼が僕の持ってるベーカリーの袋を指さした。
「うん。キミってパンが好きだよね。」
「え…?」
「名前も知らないのに、可笑しいよね?…でもこれ、ホント美味しいから、あげる。それじゃあ。」
「待ってよ。ほら、お返しだよ。リンゴくん。」
デニッシュをひとつ、彼が投げて寄越した。
「有難う。デニス。」
フハッと気の抜けた音がして
「どういたしまして。」
彼が綺麗に笑った。
パンをかじりながら、コッチを見て、朗らかに手を振ってくれたんだ。
僕はもうそれだけで…
ー可笑しいよね?
でも、ホントに
もうそれだけで、満足だったんだ。
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