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テンメツ yellow (単発)
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「ハシノ!!」
―あぁ、…また出たか。
昼日中の社食。季節のせいか、トチ狂った男がオレを見据えて、笑いよった。
「邪魔や。そこ退いてんか。」
すぐに席を立ったオレの進路を塞ぐニヤケ面。
「またまたぁ~。ランチ、まだ全然残ってるじゃん?」
「知るか。」
顔を背けたオレを見て、猫みたいなカワイのデカ目が光った。
「なぁ。…今すぐ、ココでぶちまけてやろうか?オマエのヒミツ。」
ククッと歪んだ嘲りを浮かべた顔へ、オレは冷静に切り返してやる。
「おう。言えるもんなら、言うてみい。そやけど。ソッチも、後でlineにナニ貼られても、文句言うなや?」
「またまた~。冗談キツいよなぁ。」
「確かに、最高の冗談やろな。」
ソラッとぼけてスマホを突き付けてやった。
「っ!?」
一瞬、零れ落ちそうに見開かれた眼。
オレがカワイに見せたんは、いわゆるハメ撮り、いうヤツや。
画面が暗いから、ギリ誤魔化せとるけど。
この顔は、カワイで間違いないハズや。
「可愛いネコの写真やろ?」
オレはカワイのトレーからシュウマイをつまみながら言うてやった。
「ぉ、屋上!行こうよ。そうしよう!!」
そのままメチャメチャ強い力で拉致られた。
「あんなの、一体どこで見付けたんだよっ?」
屋上行く途中
非常階段でコッソリ訊かれた。
「知らんがな。」
「ウソツキ!!」
ギッとツメが腕に食い込んだ。
「ホンマや。知らんうちに、オレのパソコンに入っとってん。」
「…え?」
カワイが、目を真ん丸にして固まった。
オレは、相方と暮らして4年。デジカメも、パソコンも、いつの間にか一緒に使うとった。
つまり、カワイのアレは、相方がどっかで拾たんやろな。
「システム部の甲田さん、だっけ?最近、どうなんだよ?」
「どないもないで。つかず離れずや。」
オレは弱味を見せんように、精一杯強がって、嘯いた。
「ウソばっか。こんなに寂しそうな顔しててさ、ずっと放って置かれて発情してんのに。そんな訳ないじゃん。」
カワイの目が光る。
「発情、て。おまえな…。」
身も蓋もない言い方に絶句した。
「ねぇ。居ない人は放っといてさ。…俺とシようよ?」
強引に絡み付こうとする指先を、ギリギリのところで振り払うた。
「何回言うても、アカンもんはアカンねん。おまえ相手に勃たんもんは、どないにもしようがないやろ?」
「ハシノは勃たなくてもさぁ、…俺が突っ込めば、気持ち、よくなれる。でしょ?」
舌なめずりしそうな顔でカワイがぬかした。
「…は?」
―あほらし。
「手、離せや。」
「あっ、ごめん。痛かった?」
馴れ馴れしく肩を抱こうとしたヤツの腹を思い切り殴り付けた。
「グッ!!」
「今後一切、オレに関わんな。ええか?」
「なンだよ、お高くとまりやがって!絶対ヤってやるからな!!」
「一昨日きやがれ、ケダモンが。」
オレは、そのまま非常階段からオフィスへと戻った。
―あの、クソが!
1日中ムカムカが収まらんかった。
確かに、甲田とオレは遠距離になって、そろそろ終わりかけとる。
もう随分、ナンもしてないし、忙しいと逃げられて、ロクに話も出来てへん。
正直、寂しいな、切ないな、思わん日は無い。
そやけど、それは、あんなカワイなんかには、関係あらへん話や。
あわよくば割り込んで、オレをスキにしようやなんて
そんなこと、させてたまるか!
「ねぇ。ちょっと行こうよ。」
終業ベルが鳴ると、またカワイが出た。
知らん顔で建物の外へ出たところを、またメチャメチャ強い力で引き留められた。
―コイツ、妖怪か!?
「ちょっとだけ。駅前のカフェで話そうよ。」
―駅前なら帰り道や。
それに人目も多い。
渋々歩き始めたオレに、カワイが囁いた。
「ハシノって、強いんだな。見直したよ。」
「…そら、どうも。」
―マズッた。
カワイが、軟化した。
殴ったんは、失敗やったかもしれん。
そう思いながら、カフェを目指した。
「ハシノはさ、どうしてそんなに硬い訳?」
「なんでもや。」
―ウソや。
オレは、弱い。
こうでもしとかんと。すぐに相手に引き摺られて、バカを見るハメになる。
「もっと、ラクに生きなよ。」
「おまえみたいにか?」
「なにその言い方?まあ、ハシノにだったら、言われても仕方ないけどさ。」
カワイは肩を竦めて苦笑した。
「オレがカワイみたいやったら。浮気かて、されんとすんだんかもなぁ…。」
「えっ!?」
「…いや。もう、あっちが本命なんかもなぁ。」
可笑しくもないのに、笑えてきた。
「何だよ、それ!?許せるの?」
「しゃあないやろ?もう2年も離れてんねんし。お互いこの年や。親や上司が、結婚せえってうるさいんやろうしな…。」
「ハシノ、おまえ…。」
「それでもな。キライにはなられへんねん。オレのウリはこの硬さやしな。ソコを今更無くす訳には、いかんのや。悪いな。」
オレは静かに席を立ち、カフェを後にした。
何日か後、甲田からlineが入った。
『結婚することになりました』
―やっぱりか。
居ても立っても居られんようになって、部屋中を片付けた。
甲田の持ち物は、全部、ゴミ袋に詰め込んだ。
―あ。
パソコン、どないしよ?
手が止まった。
デジカメは、カード抜いたら、そのまま使える。
けど、パソコンは…。
オレは焦点の合わん目でノートパソコンを見つめた。
「…しゃあないな。」
土曜にでも取りに来させよか。
『パソコン持ってけ。土曜は留守にする。合鍵は置いて帰れ。』
金曜の夜。
久々に外で飯を食った。
「なんでだよっ!?お前どうしてそんなことが…」
カワイの声やった。
むしゃぶりつかれたまま、突っ立ってんのは、きっと甲田や。
あの佇まい。顔を見んでも、今どんな気持ちかが、オレにはよう解った。
「慎っ!!もう、ええんや。もうええから、行こう?」
カワイに抱きついて、やっと引き離した所へ
甲田の拳がオレの顔目掛けて繰り出された。
「っ!!」
「ハシノっ!?」
倒れる直前、黄色になった信号が目に入った。
―ほら、やっぱりや。
薄く笑いながら、オレはそっと目を閉じた。
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