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「アノコガホシイ」
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藍色の空が少しずつ白く薄まる。
営業を終えた廓が建ち並ぶ通りは人の姿が疎らになりひっそりと静まり返っている。
門の向こう側。
この時代の象徴とも言える廃墟と化した崩れかけのビルの山から朝陽が少しずつ顔を出すほんの少し前。
僕はその時間の外が一番好きだ。
「雅?まだ起きてるのか」
「蓮こそ。今夜はゆっくり寝られるのに」
久しぶりに泊まり客のいない今日。
深夜過ぎに接客を終えた僕はシャワー浴び、独り窓辺から外の風景に酔いしれていた。
「俺は明日の予約確認とその準備が今終わったとこ。あんたはとっくに寝てると思ってたけど…何やってるんだ?」
「んー、特にこれと言ったことはしてないよ。ただ寝付けなくてさ」
「へぇ……。あんたでもそんな事あるんだ?」
「……どういう意味かな?」
「あ…いや別に…」
両手に持つ綺麗に畳んだタオルの山に顔を隠して気不味そうにする蓮は本当に真面目だと思う。
明日の準備なら明日の夕方にでもやるのが当たり前だ。
なのに彼は先に準備を済ませてる。
僕はそんな風にした事なかったな。
「蓮。これからヒマ?」
「え……これから寝」
「ヒマだよね?だったら散歩に付き合ってよ」
「はぁ!?だから寝──」
「主人の言うことは~?」
「っ!…………絶対服従」
「良くできました。今すぐ服に着替えてきて。先に降りてるよ」
僕達は一年のほとんどを着物で過ごす。それは単に仕事着だからだけど、廓の外へ出かける時は絶対に洋服を着る。
娼夫と分かれば色街の中だろうと襲われる事が多いからだ。
でも皆仕事で疲れきっていて出かける気力なんて残ってないからあまりそういう風景も見かけない。
それは僕も例外じゃなく、こうやって服に袖を通すのは本当に久し振りだった。
「やっぱり変な感じ」
着物姿以外の自分が鏡の中でぎこちなく笑う。でもこれでいい。
「蓮遅ーい」
「…………」
「何?」
「なんか…着物姿が板に付いてて変な感じ。雅じゃないみたい」
「それはお前も同じ。どこの子供かと思った」
「っ!!子供じゃねーし!」
「ほら静かに。今は深夜なんだから騒がない。早く行くよ」
膨れっ面の蓮はいつもよりなんだか幼く見える。服のせいかな?
着物姿は大人びて見えると言うのは本当らしい。
でも妥当と言えば妥当の容姿なのかもしれない。
彼はまだ14歳で子供だ。ここに来た頃からは随分背も伸びて体つきも男っぽくなったけど、実際にまだ売りをしてはいないし心は純粋で無垢のまま。
僕にもこんな時があったんだろうか?
彼はいつまで変わらずにいられるんだろう?
そんな事をぼんやり考えて歩いていると不意に服の裾がつんつんと引かれる。
「どこ…行くんだ?」
「そうだな~。お酒が飲みたいからバーに行こう」
「へ……、俺まだ15じゃないんだぞ!?」
「あ、そっか。だったら蓮はジュースね。えーっと、バーは確か…」
何年も前に行った店を思い出しながら歩くのを蓮は少し緊張気味に付いてきた。
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