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いつもと変わらない、ごく普通の日だった。
今日も今日とて、幼馴染のタマキは俺の部屋にきていて、俺のベッドの上でごろ寝。
「なあ、それ面白い?」
「ああ」
そりゃそうだろうよ、俺だって面白そうだと思って買ってきたんだから。
呆れ顔で見つめるも、本人はマンガに夢中だ。
こんな調子で今年、大学4年生。腐りに腐ったこの縁も、17年目に突入するが、……来年からは違う。
タマキは大手自動車メーカーに就職、俺は大学院に進むことが決まっていた。
その腐り果てた縁にもはや別離、とでも言うべきだろうか。
来年からは、こんな風にふたりして家でグダグダすることもなくなるのだと思うと、このゆったりとした時間も貴重な思い出になるんだろうな、と少し感傷に浸ってしまう。
「近所に越してきたんだ、仲良くしてやってくれ」と、親父さんから紹介されて、タマキからのばされたチビた手を握ったあの日が、なんだか懐かしい。
「ふふふっ」
「何だよ、気持ち悪い」
マンガを読みふけっていると思っていたタマキは、俺の小さな笑い声にも、鋭く反応する。心底不快、といった顔をこちらに向けてくる。
「……ほれっ」
その顔がおかしくって、もっとおかしくしてやろうと俺は右手を差し出す。
「は?」
「だから、ほら」
意味が分かっていないタマキの為に、さらに右手を近づけひらひらと振ってみる。
「まだわからない?ほら、カム、カム」
犬で呼ぶようにしてやれば、タマキはやっと分かったとでもいうように、さっと俺の手に乗せた。
「マンガじゃねーよ」
「……キレんなよ。ほら」
冗談、冗談と肩をすくめたタマキは、ようやく俺の右手を握った。
「満足?」
「ああ、満足。つーかさ、相変わらずおまえの手、冷たいね」
ぎゅっと握ってやれば、こいつもまた握り返してくる。
「そう?」
「うん、お前と初めて会ったときから思ってたんだけど」
タマキの手は、本当に冷たい。
手の冷たい人間は、心が温かいって言うけど、それは置いておいて、この冷たさはある種、異常だ。
さっきからぎゅっぎゅっと握ってみてはいるが、俺の体温がタマキに移ることはない。
むしろ、俺の手が冷たくなるほどだ。
「冷え性か?」
「いいや、生まれつき?」
「なんだよそれ。この前、鈴木さんの手ぇ触ったけど、暖かかったぜ。女子より冷たいってどうなの」
「……は?鈴木?」
急にタマキの声が強くなった。
「ほら、バイト先の。この前入ってきた新人、名前くらい覚えろよ」
「それくらいは分かる、バカにすんな」
「だって今聞いただろ」
「そこじゃなくて、何でそいつと涼が手、握りあうわけ」
未だにつながれたままの手を少し引かれる。
「……なんだよ」
「こっちが聞きてぇよ、何で鈴木と」
「なんか勘違いしてるだろ、握ったなんて一言も言ってない。触ったって言っただろう?ちゃんと聞けバカ」
勝手に聞き違えて、勝手に怒り出すのはこいつの悪いところだ。
ぐいと引かれた手が痛くて、俺は握っていた手を離した。
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