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特別番外編 『野球観戦に行ってみたら⑩』
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試合はその後も少しずつ点を入れていき、その度に僕たちは歓喜の歌を皆で歌った。
赤く染まった球場全体がひとつになっている。
途中マスコットのシャーク君がグラウンドに出てきて、バズーカーでプレゼントをスタンドに打ち入れた時は、皆自分の所へ打って貰おうと必死のアピールだった。
「残念だったな、結斗」
「うん。でも楽しかった」
他にも合間にカメラがスタンドに向けられ、これにも皆アピール。
選ばれた人は、シャークが試合に勝った日には、ヒーローインタビューした選手と記念撮影出来るから。
あと、旅行券が貰えたりする。
僕は自分でいうのもなんだけど、恥ずかしがりやなのでアピールが弱いし、おじさんは大人の上に、そういうタイプじゃないから椅子に座って僕の遠慮がちなアピールに優しい笑顔を向けてくれていた。
そんな風に見られているから余計にアピールしにくかったんだよね…本当のところ。
しかも…。
「お、おじさん…」
「ん~?」
おじさんはカメラに捕らえられて、ビジョンに映ったと思ったら突然、僕の肩に腕を回して引き寄せた。
戸惑う僕に、とぼけた様子で返す。
そして、整った顔を頬に擦り寄せてニコッとあの恐ろしい程の笑顔を浮かべる。
キャァァーーーーーッ!!!
急に周囲の女の人から声が上がり。
おじさんが手を振ったら球場全体がギャァァァーーーーーッ!!!と悲鳴にも似た何かが。
一体何なんだと思わずには、いられない。
ここ、球場だよね…?
ビジョンからおじさんが消えると、悲鳴は無くなったけど…ザワザワとした声と沢山の視線感じるのは気のせいなんかじゃ無いと思う…。
本、当、に、 恥ずかしかった。
その後もアストロビジョンで発表のあった抽選は外れて残念だった。
だけど皆で踊ったりもしたし、7回には球団のテーマを歌って、ジェット風船を空に飛ばしたりもした。
ウキウキとワクワク…それと視線を感じるソワソワを保ったまま、とうとう9回を迎え。
「やった~!!」
最後のバッターを仕留めて試合終了。
球場全体が大盛り上がり。
「ばんざーい、ばんざーい、ばんざーい!!」
いぇーい!と、おじさんと歓びあった。
それからヒーローインタビューもしっかりと見て僕とおじさんは席を立った。
球場の外では号外の配布があったので、列に並んで『シャーク勝利』の記事を受け取った。
「勝って良かったね!」
僕が記事を読みながら興奮気味に言うと、おじさんが頷いた。
「そうだな。試合もだけど、結斗が喜んでくれたことのほうが俺は嬉しいよ」
然り気無く腰に手を回しながら囁かれる。
その顔と声は反則だと思う。
顔がポッと熱くなる。
「ま、また来たいなぁ…」
恥ずかしさを誤魔化そうと口にすると、おじさんが頷いた。
「あぁ、またふたりで来ような。次は白田の投げる時に観に来たいな」
「うんっ!」
メジャーの高額オファーを断って古巣に戻ってきた白田投手。
『男気』という言葉で世間を驚かせた。 ファンとしては毎年定番として帰って来てくれと言ってはいたけど、まさか本当に帰ってきてくれるなんて…。
僕は当時その記事をネットで見て目を疑った。
誰かの冗談じゃなかったんだよね。
嬉しいなぁ。絶対に次は投球姿をこの目で見たいな。
僕たちは今日の試合の様子を話ながら、駅へと向かう。
道は帰る人の波で赤色に染め上げられている。
向こうの方まで赤だ。
皆、勝利に酔いしれているみたい。
僕たちの回りに居る女の人達は、おじさんに酔ってるみたいだけど…。
女の人率が高すぎて、免疫の無い僕は酔いそうになる。
「ホテルでお祝いだな」
おじさんがそう言った。
ロッカーで預けていた荷物を受け取りタクシーに乗ると、僕たちは今夜泊まるホテルへと向かった。
女の人から逃れられて、ホッとした僕でした。
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