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「三日月は、この村の蛇神になる前はどこで何をやってたんだ?」
「さて――あまりよく覚えていないな。けれども、『神の使い』と呼ばれて、どこやらで卵をもらっていたのは、なんとなく覚えている、ような気がする」
「卵? おまえ、卵が好きなのか?」
「うん、好きだよ。だけどねえ、あの時は別に、私のほうから卵をくれと頼んだわけでもなかったのだけれどねえ。というかその、あのころの私は、人間と言葉を交わすことが、まだ出来なかったから」
「それなのに、なんで『神の使い』だってわかったんだ人間どもは?」
「うん、どうも、私が白蛇だから、そういうことになったらしいんだよねえ」
「へ? 白蛇だから?」
「うん、どうもそうらしかった」
「……つまり、色のせいか?」
「うん、まあ、そういうことになるのかな?」
「ふーん……なあ」
「なんだい?」
「人間ってさあ、へーんなやつらだよな!」
「そうだね。でも――」
「でも?」
「私は、好きだよ」
「……ふーん」
暁丸は、大きく鼻を鳴らした。
「なあ」
「ん?」
「神様っていうのは、白いのが好きなのか?」
「え?」
「だって、おまえは白いから、神の使いだってことにされてたんだろ? だったら、神様っていうのは、白が好きなのかな、って思って。……あ」
暁丸はポカンと口を開けた。
「っていうか、おまえ、蛇『神』様じゃん。え、なに、じゃあ、神様ってみんな白いもんなのか?」
「いや、さすがにそれはちょっと違うと思うのだが」
三日月はおかしそうに笑った。
「けど、まあ、うん――確かに、『神』にかかわることやものには、『白』という色が使われることが多い、かな?」
「ふーん……」
暁丸は、鼻にかかった吐息を漏らしながら、三日月の、全身を白一色に染め、その瞳のみに鮮やかな緋色を宿す姿を見つめた。
「……俺、好き」
「え?」
「俺」
暁丸は、どこか拗ねたようなふくれっ面で、上目づかいに三日月を見つめながら言った。
「白、好き」
「ありがとう、暁丸」
三日月はふわりと微笑んだ。
「私もね――『紅』が、好きだよ、とても」
「……ん」
むぅ、と唇を尖らせ、まだどこかに拗ねたような表情を残したまま、そっぽを向いてそっけなくうなずく暁丸の、その赤銅色の首筋と耳元は、もともと色の白い三日月に比べたらずいぶんわかりにくくはあるが、それでもほのかに、紅の色を漂わせていた。
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