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穴
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それから二人は今までと、今後のことを話しに、奥で待つ父のもとへ挨拶に行った。
野次馬に群がる女中たちに混ざる気にもなれず、私は二階の自分の部屋へ向かう。
扉を閉め、腹の中で渦巻くどす黒いものが収まるのを静かに待つ。
眞人を、外国に行かせなければ。
父が、縁なんか切らなければ。
私が、兄を愛したりしなければーー。
こんな未来は、防げたのだろうか。
「くそっ…ーー!」
ダンッ、と壁を叩くと、壁はいとも簡単に脆く崩れ落ちた。
ぽっかり空いた穴を見つめ、ふと、隣は眞人の部屋だったことを思い出す。
こんな風に、力任せに繋げようとしても、先にあるのは道ではなく、真っ暗な穴だけだ。
その先に、眞人の笑顔があることを一瞬でも夢見た自分が、たまらなく腹立たしく思えた。
私たちは男同士で、実の兄弟だ。
いくら望もうと、眞人と歩む道なんてひとつもないくせに。
無理矢理眞人を自分のものにしようとして、結局に永遠に手放してしまった。
日が落ちると、有紀子さんは実家に泊まるといって帰っていった。
眞人が家族水入らずで話し合える時間を作ったのだろう。
私は自室の窓越しに、その姿をぼんやりと見送った。
夕食に呼ばれても、私は応えなかった。
十分に取り乱した後だ。呼びに来た女中も、しつこく繰り返すことなく、私を放っておいてくれた。
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