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雨のち曇 01
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帰り道。
何故、咄嗟に上手い言い訳が思い付かないのか。
聡は自分の頭の回転が遅いことに、苛立ちを感じていた。
駅の近くまで来ると、本屋が目に飛び込んできた。そういえば寄ろう思っていたと、落ち込む気分を持ったまま、少しでも気分を紛らわそうと立ち寄ることにした。
参考書のコーナーに行き、所持金からして1冊買える程度の為、一番苦手な英語に絞る。
立ち読みできるものを手に取り、パラパラと目を通す。
(うーん、これだったら分かるかな…幾らだろ…)
「へー。英語苦手なのか。」
急に聞こえた後ろからの声に驚き、勢いよく振り向くと、そこには成美が立っていた。
「な、なななんでお前ここにいんだよ!?」
「は?…参考書探しに。」
「あー…テスト近いもんな…」
(ってか急に後ろから声掛けるなよ…)
「それより、こっちのがいいと思うけど」
「え…?」
「参考書。」
どんなものかと、薦められた本を見ると『猿でも分かる』と書いてあった。
「え…なにこれ俺バカにされてる?」
「え、バカじゃねーの?」
「バカだけどバカじゃない!」
矛盾している聡の返しに、成美は「やっぱバカじゃん」と笑ながらツッコム。
ムッとしながら睨んでいると、本屋の店員から「お静かにお願いします」と注意を受けた。
ペコリと頭を下げて謝罪する聡を他所に、関係ないという風な態度の成美。
「お、お前も謝れよ…」
「俺は声でかくしてねーし」
「もとはお前…!」
またつい声を荒げてしまい、ハッとしてチラリと店員を見ると、咳払いをして返された。
「~~っ!買ってくる…!」
「これ?」
「こっちだバカ!」
謝罪を述べながら買い物を済ませる聡。
成美は目当ての物を既に持っていた為、隣のカウンターで会計を済ませた。
なんとなくの流れで、一緒に自動ドアを出る。
ハッとした聡は、キョロキョロと周りを伺う。
成美目当ての生徒がいると、また面倒なのだ。
「…なに?」
「いや、大丈夫…。なんでもない。」
どう見ても"なんでもない"という態度ではない聡を横目に、成美は眉を顰める。
ーーポツ
さて帰ろうとしたタイミングで、大粒の雨が足元に落ちる。
聡が空に目線を向けると、徐々に雨足が激しさを増してきた。
丁度本屋の入口には雨よけ用の屋根があった為、そこにいれば濡れることは無さそうだ。
しかし、買ったばかりの参考書を濡らしたくない聡だったが、傘を所持していなかった。
斜め向かいにコンビニがあったが、財布を見て、50円しか無く途方に暮れる。
すると、横からバサッと音が聞こえた。
音のした方へ目をやると、成美が折り畳み傘を開いていた。
「…あの」
「なに?」
「…俺、傘持ってなくて…駅まで入れてくんない…?」
なぜ梅雨時に傘を所持しないのかと、成美は聡に蔑んだ視線を送る。
暫く間を置いて、溜め息を漏らと、聡に傘を差し出した。
「…俺ん家、こっから近いから」
「は!?いやいや、お前濡れちゃうじゃん!」
「この傘に一緒だと、俺もお前も濡れるだろ…」
「確かに…でもだったら俺走ってくわ…」
駅までといえども、歩いて5分くらいだ。
しかし、雨は瞬く間に強くなり、豪雨とまではいかないが、いよいよ本格的になってきた。
「ちょっとここで待ってろ」
「え?」
聡の返答も待たず、成美は持っていた傘を差すと、早足で本屋を去っていった。
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