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雨のち曇 03
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どう返すべきか。
聡は視線を足元に向ける。 浅い呼吸を繰り返し、なんとか言葉を絞 り出そうとするが、うまく言葉にできな い。 力を入れた両拳に、ジワリと汗が滲み、 額に脂汗が浮き出る。 どうするべきか、どうすればいいのか。 涼太の事は嫌いでは無い。寧ろイイ奴だ というのは十分に分かっていた。
「昼とか誘っても来ないしな…」
まるで嘲笑にも聞こえる乾いた笑いを漏 らした涼太に、聡は伝えるべく言葉を考 えていると、成美から予想だにしない声 が聞こえた。
「昼、俺と食ってるから。」
3人の間に数秒の沈黙が流れる。 と、驚きで頭が真っ白になった聡は、慌 てて成美を掴んで小声で問い詰める。
「お前な、なななに言ってんの!!?」
「…は?」
「いやいや!マジでお前…はあ!?場所 バレたら俺昼食うとこどうすんだよ!! 」
「場所言ってねえし。」
「お前いるってなったらバレんだろ!」
「は?なんでだよ」
「目立ってるからだろが!」
聡と成美が小声で言い合いをしている姿 を見て、涼太はギュッと差していた傘の 枝を握る。
「帰るわ。じゃあな。」
「あ…は、せべ…」
聡の声を振り切り、足早に駅へ向かって いった。 涼太の後ろ姿は、降りしきる雨の中へ溶 けていくように、遠くなっていった。
きっと明日からは、聡に声を掛けてくれ た唯一の人も居なくなるだろう。
これでいい。これでよかったのだ。
「これで…」
ポツリと呟いた聡の両拳が、力強く握っ た為か、それとも違う感情からなのか、 小さく震えていた。
「…良かったのか?」
聡の溢した一言に加えるように、成美は 聡の後ろから声を置くと、暫くして小さ く頷いた。
「一人が…いい…」
土砂降りになった雨は、まるで聡の孤独 を誤魔化してくれるかのように、派手な 雨音を奏でた。 成美は、そんな聡の肩に無言で差した傘 を置き、その場を去る。
「…嘘つけ。いつも俺と居るじゃねぇか 。お前…」
聡と離れてから呟きを残す。それは聡に 聞こえる訳もなく、初めて感じた他人へ の寂しさが、少しだけ成美の中に残るの であった。
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