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散々ギャーとかうわーとか叫び散らした後、俺は取締役と札の掲げられた席の卓上に突っ伏していた。
「よぉ貴文、大概機嫌直せって。な?」
面倒くさそうな声色で蘭が気遣いの言葉をかけてくるが今の俺にはそれに返答を返す力もない。
「別にデモならまた海都先輩に焼いてもらえばいいじゃん。何もそんなこの世の終わりみたいな落ち込み方しなくたってさぁ」
だろ? なんて気軽に言ってくる悠太の言葉に、ピクリと俺の眉が跳ねあがる。
焼いてもらえばいいじゃん、だって? そんな簡単にもらえるなら俺だってここまで落ち込むかバッカヤロー!
「お前ら……」
ゆらぁりと幽霊よろしく俺の上体が持ち上がる。そしてギロリと他人事の様に未だ菓子をむさぼり食う蘭と悠太を睨み付けた。
「海都先輩がどんだけ怖いかわかってねぇ、ああわかってねぇよ!!」
「え」
「た、貴文?」
「あの自分に厳しく他人に鬼畜な先輩がなくしたからってンな簡単に新しく焼いてくれるわきゃねーだろ! とりあえず開口一番この世のものとは思えない程の暴言攻めされるに決まってんだ!!」
海都先輩ってのは俺の通う高校の一年上の先輩で、実さんの息子さん。そしてSAGINに楽曲を提供してくれている作曲家でもある。ちゃんと事務所に所属しているプロだけ れど、実さんの口利きでそれはもう有り得ないくらいの安い金額(ほぼ無償)で作曲依頼をうけてくれているんだ。
ただでさえタダ働きに近いのに、まさかその依頼品をもらったそばからなくしたなんてそんな恐ろしい事口が裂けても言えるわけがない。
「んな大袈裟な……」
「海都先輩身内には甘々じゃん。シーナか樹のどっちかが頼めば絶対折れるって」
苦笑いをもらす二人に、俺はゴンッと机に拳を打ち付けた。
「お前らは知らねぇだろうけど、あの人はあー見えて俺ら族にとってはっ……」
「たっだいま~」
俺の言葉を遮る様にバンッと勢いよく廊下と部屋を隔てるドアが開かれ、出掛けていたトナミが入ってきた。両手には大きな紙袋を抱えて。
「……って、あれ、どしたの?」
きょとりと辺りを見渡して小首を傾げるトナミに毒気を抜かれ、俺はぷいっとそっぽを向いて浮かせた腰を椅子へと戻した。
「どこに行ってたんだお前」
どさりとソファーテーブルに置かれた荷物を覗き込みながら蘭が訊ねる。その問い掛けにトナミはふっふ~と笑いながら紙袋の中から大きめのタッパをとりだし、じゃーん! と効果音をつけてフタを開いた。
瞬間辺りに響く奴等のおおっと言う驚きの声。
「今日咲ママの誕生日だろ? だからパーティーの料理作るの手伝ってたら鈴あんちゃんがお礼にって作ってくれたんだ」
タッパの中に詰め込まれてたのは金糸卵やかにかまぼこ、海老で彩り鮮やかに飾られたちらし寿司だった。仄かに香ってくる酢の匂いが食欲をそそる。
「いっつーは神宮の家で食べるから、リーダーと悠太とシーナ、貴文と俺と美月の分ね」
いつもは自分で飲む茶を入れるのも面倒だとかってなかなか動かないのに、食べることに関しちゃ自ら動くんだよなこいつ。
棚から人数分の皿と箸を取りだしてテキパキと取り分けて行くトナミに半ば呆れの視線を投げ掛ける。
「まぁ鈴音さんのご飯が出てきたとあっちゃあハンバーガーは諦めるっきゃないよな。貴文、今日は見逃してやるよ」
「へいへいそりゃありがとよ」
「はい、これ貴文の分ね」
ちらし寿司が綺麗によそわれた皿が目の前にコトリと置かれる。
あぁうまそうだな、なんて頭の片隅に過る言葉。うまそうだってかうまいのはわかってんだよ鈴音さんの料理の腕半端ないもんな。
けど……。
「俺いらね」
はぁ、と軽く息をついてまた机に突っ伏した。
そんな俺の様子に、トナミがん~? と顔を覗き込んでくる。
「は? マジで言ってんのそれ。鈴あんちゃんのちらし寿司だぞ!」
「今腹減ってねーの。お前にやるよ」
俺は今暢気に飯食ってる気分じゃないんだ。MDをどこに落としたのか考えて考えてそれどころじゃないんだよ。
はぁ。
本日何度めかの溜め息をつく。
溜め息をつくとついた分だけ幸せが逃げるっつーけど知るかんなの。
「どうした訳これ。やけに沈んでんだけど」
「しゃちょー、海都先輩にもらったばっかの新曲デモなくしちゃったんだってさ」
「え!? マジで?」
「新しく焼いてもらえばっつったんだけどよ俺ら」
「ねぇ?」
「えー……」
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