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Got information(得られた情報)
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数日後。とあるオフィス街の路地裏へ隠すように停めた車の中。
運転席に座る男は先刻、情報屋から手に入れた茶封筒を開封して中から報告書を取り出した。
クリップを外し幾つか写真が留めてある表紙を捲ると、白島は隣にも聞こえるように内容を軽く音読し始める。
「ブランク・ベッタニー…本名アルフォンス・フラハティ。米国籍、プリンストン大学院卒…細胞生物学博士号取得……」
学歴ばかりの当たり障りの無い個人情報のページを飛ばし、肝心の項目を探す。
【赤猫】
…情報開示不可———
「…は?なんだと、圧力がかかってるってことか?」
情報屋を丸め込める程の組織なら名前くらいは耳に入ってもいいものだ。ごく最近に出来た組織なのだろうか。
「…尚、Dr.アルフォンス・フラハティと赤猫の関連性は見当たらず、…と…。まさか。二枚も三枚も噛んでるはずだ」
高い金を払ったのに得られたものはこれっぽちか、と悪態をつき背凭れに身体を押し付けパラパラと書類をめくるとブランクの履歴からある単語が目についた。
———【〜年 6月 四ツ木研究会館、勤務】
「四ツ木研究会館…」
その名を見て白島は自身の記憶に思い当たる節を見つけ眉根を寄せる。紙面を凝視する相方へテルは首を傾げた。
「どうした?」
「…いや…、何でも無い」
白島は溜息をつくと書類を揃えて封筒に戻し、後部座席へ投げた。おもむろにシートベルトを引いてエンジンキーを回す。
「そういやお前、人を捜してるんだったよな?」
車を前進させバンドルを回しながら問う声にテルはか細く返事をして頷いた。
「ついでに情報屋に頼めば良かったんじゃないのか?」
「…依頼した。以前に」
「そっか…」
こちらも大した収穫を得られなかったようだ。先日この質問をした時、探している人物を聴きそびれていた事を思い出す。
「誰を捜してるんだ?」
車は路地を抜け国道へ続く信号へ差し掛かった。質問にたっぷりと間をあけて、少年は決心したように口を開く。
「…照屋鳴介。…俺の、兄だ」
「てるや…なるすけ…?」
その名を耳にするや否やビクッと肩を震わせた白島をテルは見逃さなかった。
「…知っているのか?」
男はテルを一瞥してからフロントガラスに視線を戻す。そして「ビックリした」と大きく息を吐いた。
「知ってるも何も…俺が運び屋として最初に組んだパートナーだよ…」
少年がギョっと目を見開く様を視界の隅で捉え白島は苦笑する。
「桜野さんに兄貴の事は聞いていたのか?」
頷く。
「まったく…あの人もいい趣味してるぜ…。ナルと…鳴介とは三年間組んでたよ。その最後の年に桜野さんと知り合った」
彼が白島とテルを引き合わせたのはこの由縁があったからだろう。しかし、あの仲介屋は白島が照屋鳴介と知り合いだったことを明かさなかったようだ。
「——アイツは、俺と別れたと同時に運び屋を辞めたよ。4年も前の話だ。ナルとは…それっきりで、居場所も新しい連絡先も知らない…すまん」
謝る白島にテルは緩く首を振り返す。少し落胆して肩を落とすが、それでも新たな手がかりを掴めたようで少年は表情を険しくした。
車が大きく左折するとビルの谷間から沈みかけた赤い夕日が眩しく窓ガラスから差し込み二人を照らす。
「しかし…お前達が兄弟だなんて…驚いたな。アイツ、一言も弟が居るなんて…。家族の話は聞いたことなかったから。生き別れたのか…?」
問いかけにテルは眉一つ動かさず固まる。どうやら何か深い事情がありそうだ。追求せずに微笑む。
「兄さん捜し、協力するぞ。…ナルの行方について少し心当たりがある…」
なるべくして組まされたのかもしれないが、白島にとって奇妙な縁を感じずにはいられなかった。それはテルも同じで、身近に兄の事を知る人間が居たことに驚いているだろう。
もっと早く教えてくれれば良かったのにと嘆息しつつ運び屋はテル少年と初めて出会った時の事を思い返していた。
「お前の本当の名前は…なんて言うんだ?」
助手席に座る新しい相棒は景色を眺めながら感情のこもらない声音で答えた。
「…きょうすけ。照屋、響介」
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