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NULL(ナル)
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「二人も失ったのは痛手だよ」
静かな声の主は光学迷彩を発動させず血塗れの戦闘スーツを纏った細身の男だった。彼もまた例の一味だ。中庭から降りてきたはずなのに外はやけに静かで屋敷内の喧騒もいつの間にか止んでいる。
「ウチは大部隊じゃないんでね」
それはたった三人でここへ乗り込み、そして一人で外の組員を一掃してきたという意味を示唆している。男は運び屋達の前で立ち止まるとフードをとってみせる。黒い瞳の日本人離れした顔立ちをした青年が露わになった。
「ナル…」
「久しぶりだね、拓人」
白島の記憶と寸分狂わずの姿で現れた人物は奇妙な程青白く生気のない眼差しで微笑んだ。
「探してたんだぜ、お前を」
「…そうか。その為に、随分大それたことをしたんだな」
周囲を一瞥したナルの興味は本来の目的である八熊ではなく目の前の少年に向けられていた。テルはゆっくりと踏み込むと、ポンチョの中から銃を取り出す。
「鳴介」
彼の手に握られていたのは白島と初めて会った時、鞘を壊すために使った銀のリボルバーだった。
「お前を殺す」
その銃身を見るなり大きく瞬きをしたナルはくつくつと喉を揺らしたかと思うと場に不釣り合いな笑い声を上げた。
「何の因縁なんだろう、拓人がソイツを連れてくるなんて」
「出向いた甲斐があったよ」と、一頻り嘲笑った男はテルに対し途端に憎しみで顔を歪めた。
「あの畜生の穢れた犬が」
目にも留まらぬ速さで銃を構えたナルは少年に照準を定める。緊迫したただらぬ空気に白島は困惑を隠せないでいた。
テルの目的はナルから対抗薬を手に入れる事のはずで、その願いが成就されることに越した事は無いが、且つての相棒だった男が殺される所を見過ごせるはずが無い。ましてやナルが簡単に倒されるはずがない。
「その様子だと案の定、何も聞かされていないみたいだな」
白島の面持ちに気付いたナルはふ、と鼻を鳴しテルの容姿を足先までジロリと見回すと哀れみに似た蔑みを向けた。
「響介、俺を殺した所で薬は手に入らないぞ」
「…!」
息を呑んだ少年は瞳に動揺を映す。
「あれから何年経ったと思ってるんだ?不老薬はもう完成したんだよ。お前はずっと騙されてる、所詮あの男の良い捨て駒さ。惨めで涙がでるよ」
ナルは片手でわざとらしく涙を拭う仕草をした。
「殺しの褒美に対抗薬を渡すとでも吹き込まれたんだろう?奴らはそんな薬はもう作っていない。俺が奪った分も始末された後だ。お前はどのみち死ぬ」
二人に衝撃が走った。白島の中でブランクの声が重なる。
(———あの少年は、どのみち死ぬ運命ですよ)
「例え対抗薬を飲めたとしても治るはずが無い。俺と違ってあの薬を投与した時間が長すぎるんだよ。薬が切れるとアポトーシスの狂った体はやがて細胞が崩れ続け、感染病にかかり皮膚が腐り落ちる。せめて苦しまないようにここで殺しておくのが、兄としての最後の義理だ」
テルの心を瞬く間に絶望が染み渡っていった。彼の言葉が事実ならば今までのテルの、探し続けてきた10年間を否定された瞬間だった。否、嘘をついているのが誰なのか、最初から分かっていた筈なのに気付かないふりをしていた。悪足掻きをし続けていた、鳴介を探す事が生かされていた理由だったからだ。
彼に辿り着いて漸く現実を突きつけられたのだ。
喪心した弟と対峙する兄は銃のセイフティーを外す。その小さな身体を守るように立ちはだかった男は刀を構えた。
「一体、どういう事だ」
「…昔のよしみとガキの面倒を見てくれた礼に一つ教えてやる」
白島に狙いが向いても尚、銃を構えたままナルは淡々と告げた。
「俺たちの父親はダニオ・デ・ラウロ・フィオリーノ。ネーロ一家の最高幹部。マフィアだよ」
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