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influence(影響)
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「親がいないことも愚図らずに、昔から大人しかったわい」
話し終えると景造は重々しい溜息をつきながらぼやいた。その横顔は寂しそうだ。
「わしの助手になる約束もしておったんに、今じゃろくでもないことにばかり首を突っ込んどる。まったく、誰の影響を受けたんじゃろうなぁ…」
その時、窓の外からエンジン音が響いた。
「お、噂をすれば帰ってきたようじゃな」
テルは慌ててベッドへ潜り込んで横になる。まだ寝ているフリを決め込むつもりだ。
「俺が聞いたことは、内緒にしてて欲しい…白島には…」
景造は空になったカップを引き取り小さく笑って部屋を出た。
「風呂沸いたぞーおい」
夜になり白島が居間の戸を開けるが、室内には誰も見当たらない。つい先程まで居たはずの少年の姿を探す。
「テル…?いねえのか」
「ここだ」
問いかけるとコタツ布団の中から相手が顔を出した。異様な光景に失笑する。
「お前……猫みたいだな」
11月も終わりになると室内でも寒い。テルはこの暖房器具をいたく気に入っていた。白島は近寄って相手を覗き込んだ。
「風呂沸いたからとっとと入っちまえ」
促すとしぶみのある表情をしてテルは更に奥へ引っ込もうとする。そういえば、いつもこいつは入浴を躊躇うよな。と思いつつ白島は布団を捲った。
「なんだ風呂嫌いか」
「濡れるのは苦手だ…」
ぼそりと零した本音を聞き、猫だな、と心内で確信する。
「面倒ならさっさと洗ってやるから。一緒に入るか?」
「!?」
からかうように提案するとテルは目を丸くした。僅かに火照っていた頰が更にピンク色になる。
「いや、いい」
「な〜に恥ずかしがってんだクソガキ」
「ガキじゃない…!」
はいはい、と笑いながらあしらうと白島はテルの首根っこを掴んでコタツから引きずり出した。
そのまま風呂場まで連行すると手早く脱がされ結局一緒に入る事になった。
広い湯船の中で白島の体を覗き見る。立派と言える程筋肉質ではないが、男らしく引き締まっており見劣りしない。こんな身体つきになれたら何をするのにも容易いはずだ。
自分はどこまで成長できるんだろうか、とテルは湯の中に掌を翳した。
彼は強くなるために鍛えているのだろうか。
昼間に景造と話した事を思い出しほぼ無意識に呟いていた。
「なぜ、お前は運び屋になったんだ」
問いかけに、ん?と白島は少年の方を見た。
「景造が言っていた。本当は助手になる約束をしていたと」
顔を上げるとお互いに目が合う。白島は溜息をつくと苦笑し浴槽の縁に肘を引っ掛けた。
「ったく、俺がいねえ間に爺さんに吹き込まれてやがる」
彼は顔に滴る雫を指で拭うと視線を遠くの方へむける。
「…まあ、最初はそのつもりだったんだ。一応な」
伏せられた瞼は過去を懐かしんでいた。
「昔、爺さんに世話になった患者に運び屋をやってた人がいてな。怪我が良くなるまでこの街に留まってたんだ。その時に色々教わってさ。影響を受けたとしたら、そこだろうな」
「お前はどうしてなんだ」という白島の返しにテルは今までの経緯を話した。父のこと、母のこと、薬のこと、ナルのこと…彼を追いかけて国を渡り、10年の間殺し屋として働きながら転々と放浪していたこと。
「なるほどな…」
その表情は初めて顔を合わせた時、怪訝そうにテルのフードを払った時のそれと似ても似つかないものだった。あの日マンションで言われたことを思い出す。
(——けどなあ俺が完全にお前を信用した、とは思うなよ)
なのに今ではこうして風呂まで共に入れられている始末だ。テル自身もこの男に事情を話すことは無いと思っていた。所詮、通過点の一つにすぎないのだと。
淀んだ反転社会の中で、甲斐甲斐しく知人の弟の面倒を見るような、こんなにもお節介な人物に会うのは生まれて初めてだと相手にバレないように薄く笑った。
「迷惑をかけた」
謝罪すると、白島は面食らった。それも僅かな間のことだ。
「ま、無愛想で可愛げがなくて生意気だし面倒だが…お前と組んで後悔はしてないぜ」
投げやりな言葉だが安心感と信頼を与えるには十分だった。
テルは、立ち上がり先に浴槽から出た白島の腰に火傷したような古傷が残っているのを見つけた。彼の再生体質をもっても治りにくかった大怪我だったのだろうか、とぼんやりと考えた。
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