アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
全てのハジマリ
-
「…まったく、あぁ、奏。とりあえず役員を紹介するね」
若槻はまるで何事も無かったかの様に、にこりと笑った。
だが表情(かお)には出ていないだけで、凪世の意味深な口調が気に障ったらしい。
若槻は質問してきた凪世を無視して、奥のソファで静かに座っているちょっと大人しそうな子に目を向けながら、俺の手を引いてソファに近寄った。
「彼は生徒会書記の仲原(なかはら)祐一(ゆういち)君。一年生だよ。ちょーっと大人しい子だけど一年生の学年トップで、生徒会の癒し的存在なんだ」
「こ、こんにちはっ」
大きな瞳がくりくりとしていて可愛らしくまるで小動物の様な彼は、ソファから立ち上げると慌てた様にぺこりと俺に向かって頭を下げた。
その様子に若槻は良くできました!!と仲原を褒めると、思いっきりのいい笑顔で抱きしめる。
そして慌てふためく仲原を軽くスルーしつつ、そのままもう一人の彼に目を向けた。
「そしてその隣にいるのは書記補佐の垣本(かきもと)隼(じゅん)君。仲原君と同じく一年生。仲原君とは幼馴染なんだって」
「こんちわ~」
仲原とは対照的にソファからゆっくりと立ち上がり、人懐っこそうな笑顔で挨拶してきた彼は、間の抜けた様な返事をしながらも仲原と同じ様に軽く会釈をした。
「奏は二人の事知ってる?」
「はい。会ったのは今日初めてなのですが、お二人の話は良く耳にしています。仲原君は一年生の首席で最年少で生徒会役員に選ばれた神童。垣本君は一年生で既にバスケ部のエースで、彼がいたおかげでバスケの高校ランキングの順が上がった期待のエース。ですよね」
お二人にお会いしたかったんです。そういって嬉しそうな表情を作って笑いかければ、仲原君はかぁと顔を赤くした。
初心だな。仲原君は。
「そう言えば、真人達はまだ帰って来てないの?もう結構経つよね?」
もうすぐ帰って来るかな?と時計に目を向けた若槻が誰にというのでなく問うと、若槻の腕の中にいる仲原はこくこくと、小さく頷いた。
「16時には帰って来ると言っていたので、も、もう帰ってくると思います…」
恐る恐るといった表情で仲原は大きな瞳を震わせながら若槻を見上げる。
その様子はまるで…ウサギだ。
「ありがとう、ゆー君。ホント可愛いね」
「……可愛いって言わないで下さい…」
「良いでしょ、だって可愛いんだから」
どうやら先程の機嫌の悪さは仲原(ウサギ)の癒し(おかげ)で大分良くなったみたいだ。
若槻はいつもの似非笑顔をちょっと和らげ、顔を赤くして俯いている仲原に、ふふっ笑いながら楽しそうに撫でてはじめた。
「わっ、若槻先輩っ……」
「もうちょっとだけ、良(い)いでしょ、ゆー君?」
撫で続ける若槻に仲原は勇気を振り絞って抗議の声を上げるが、若槻はにっこりと笑うだけで手を止めず、逆に仲原の耳元に顔を近寄せると色気たっぷりに囁いた。
(よく喰われないでいるな…)
砂でも吐きたくなりそうな光景に、俺は呆れる。
傍から見てこの状況はきっと、『 後輩を可愛がる先輩 』の図なのだろう( 可愛がるではなく、悪戯かも知れないが、あえてそこは無視して )
だが俺から見ればこの状況、『 狼に喰われそうになっているウサギ 』の図なのである。
( まぁ、仲原(ウサギ)本人は己の危機的状況に気が付いていないので俺には関係ないのだが… )
それに恐らくこの茶番(じょうきょう)も今日初めて起こった事では無いのだろう。
その証拠に、仲原(ウサギ)は体を震わせてはいるが、その表情に恐怖や嫌悪といった様な物は無く、逆に顔をほんのりと紅くし、少し口元を緩ませている。結果、このやりとりは日常的に行われいるという事だ。
そこでふと一つの考えが浮かぶ。
(…あぁ、そうか……)
仲原は若槻の事を…
「若槻先輩、そろそろ祐一を放してやってくれません?」
すっ、と俺と若槻の間に入り、先程と同じく人懐っこい笑顔で若槻に声をかけ、じゃれあっている二人の間に割り込んだ。
だが垣本のその笑顔の裏には、若槻に対して若干(?)イラつきが入っている様に見える。
そのせいかにっこりとした表情とは裏腹に、少々荒い手つきで若槻から仲原を引き剥がした。
「あぁ、…ごめんね。ゆー君」
垣本の手によって一瞬にして腕の中からいなくなった仲原に、若槻はさして気にした風も無く、クスクスと小さく微笑んだ。
どうやら垣本の反応も若槻にとってはお楽しみの様だ。
「あ、いえ…」
柔らかな髪を乱したまま、少しぽぉっとした表情(かお)で答える仲原に、垣本は心配そうな表情(かお)で仲原を見つめる。
「大丈夫か?」
「…あ、うん。大丈夫だよ…」
自分を背中から抱きしめる垣本を見上げる仲原は、多少ぽわんっとしていたが、大分意識が戻って来たみたいだ。
「そうか」
すると安心したのか、垣本は本来の笑顔を仲原に見せ、乱れた髪を優しい手つきで乱れた髪を手櫛で直し始めた。
その書記組の光景に絆されて、先程までのピリピリとした周りの雰囲気が和む。
「ねぇ、いつものやつ終わった?じゃぁ、次は俺の紹介してくださ~い!」
すると茶番を若槻の隣で静かに見ていた凪世が待ってましたっ!!とでもいうかの様に目を輝かせ、へらりと笑った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
7 / 9