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全てのハジマリ
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「ねぇ~若副会長?俺の紹介は~?」
先程から変わらず目の前いると言うのに、若槻から空気の様に扱われていた凪世が可愛いらしく(あまり可愛くも無いが)首を傾げる。
「…………」
「若副かいちょ~?」
しかし先程の事がまだ許せていない若槻は凪世を一瞥しただけで何も言わない。
だがそれにもめげずに凪世は再度「若副かいちょ~?」と呼びかける。
(何のコントだよ……)
この馬鹿げた二人を止めてくれないかと一年生ペアを盗み見れば、回復した仲原はあわあわと慌ててながら二人を交互に見ているだけ、逆に垣本は二人を見てけらけらと声をあげて笑っていた。
(めんどくさい、本当に…)
どうやら一年生ペアにはこの二人を止める事は出来ないらしい(片方は止める気すら無い様だが)
だがこのまま二人を放置だと…話が進まないし、時間の無駄である。
こちらとしては一分一秒でも若槻の傍から離れたいのだ。
今の状況が俺にとって害が無いとはいえ、早く生徒会室(ここから)から退出したい事に変わりはない。
「あの、明宏先輩?」
早く話を進めてくれといった意味も含め、おずおずといった表情(かお)で若槻に声をかけてみた。
すると若槻は凪世を軽く睨み口を尖らせると、何故か、俺に抱きついてきた。
「……………っ!!」
思ってもいなかった若槻の行動に、俺は声なき悲鳴をあげ、無意識に体を震わせる。
(何怯えてるんだ、平常に戻れっ!!)
心の中でそう言い聞かせ、俺は必死になって体に走る震えるを止めた。
クスッ
若槻に気づかれる前に震えを止めたつもりだったが、やはり無理だったらしい。
若槻に気付かれるなんて、最悪だ。
そんな俺の内情を知ってか、若槻が誰も見えない様に小さく笑ったのを俺は感じ取った
「…このおバカは以下略でいいよ。今回の話無駄に長いから巻いちゃうっ!!」
「えっーー、ちょっと若副会長っっ!!」
どうやら俺の行動は若槻以外の誰にも気づかれなかった様だ。
若槻に抱きつかれて困っているといった表情(かお)で、内心ホットしながら息をついた。
「五月蝿い」
「うげっ、ひどいよ若副会長!!さっき俺が意地悪したからって~」
「同じクラスなんでしょ?だったら紹介なんていらないじゃないか。時間の無駄だよ、む・だ」
「確かに知ってるし~無駄かも知れないけど~この場のノリでは言っておかないと~皆様に俺の事知ってもらえないじゃないですかっ!!」
「…どこ向いて言ってるんだよ」
何故か明後日の方向を向きながら叫び喚く凪世に、呆れながらも若槻は言葉を返した
「ていうか、皆様って誰の事を言ってんの」
「まぁ、そこは置いといて?~」
まるで凪世を不審者みたいに見始めた若槻の視線など気にせず、凪世は物を隣に置く様な動作をした後、自らの口で自己紹介を始めた。
「何度か話した事もあるし知ってると思うけど改めてね。生徒会チャラオ系会計の凪世(ながせ)怜(れい)で~す!よろしくね~。ちなみに補佐はいませ~ん。募集中で~す」
「募集中なんですか…?」
「そうだよ~。第一希望は綺麗系、第二はチワワちゃん系なネコちゃんがいいんだ~」
にへへと笑う凪世に俺は苦笑しながらも、内心驚いていた。
譁久夜高校の生徒会役員には各々(おのおの)に沢山の仕事と、それに見合った責任が課せられる。
それは譁久夜高校の『次世代の若者を育成し、社会への貢献を~(長ったらしいので再度以下略)』という信念がある為である。
その信念の元、学校経営を除く全ての学校運営に関して理事長はおろか教師さえも関与せず、全て生徒会に一任されているのである。
その為、生徒会役員に選ばれる者は文武両道は勿論、他生徒から支持を得ていなければならないのである。
しかし生徒会役員選挙で選ばれる者、つまり特別に優秀な者といっても所詮は高校生。
普通なら大人が処理する様な仕事全てをたった五人(生徒会長・副会長・会計・書記・庶務)で処理する事は難しい。その為の打開策として庶務の役職を廃止し、それぞれの役職に補佐を付ける事にしたのである。
(つまりは人数増やせば大丈夫だろ?という話である)
しかし打開策と言っても歴代の生徒会役員達は補佐が付いてなんとか仕事を処理できる、という状態だったので、果たしてそれが打開策となっているかは不明であるが。
「補佐がいないのに仕事は普通にこなしているんですよね…凪世君って凄いんですね」
「いやいや~それほどでもないですよ~」
本音も多少混ぜて褒めれば、凪世はえへへと笑う。けれどその様子に若槻は呆れた口調で訂正をいれた。
「ちなみに言っておくけど、凪世はただめんどくさいから補佐を決めて無いだけだよ。立候補者は沢山いたのに全部断ったんだ」
「え~だって~」
「ちゃんといたよ。綺麗系もチワワちゃん系も、勿論どの子も優秀で申し分ない子達だった」
「凪世先輩の親衛隊の方もいらっしゃいました…どの方もとても優しい方で…」
「とっても健気だったすよ?「凪世様のお役に立ちたかったのですが…けど僕達では凪世様のお役にはたちそうにも無いみたいで…」って涙を零してて」
「あの子達は自分の力不足って言ってたけど、あれはどう見ても凪世がめんどくさがって選ばなかっただけなのにねぇ」
「あは、あははははは…」
違うんですぅぅ、と子供の様に両手をバタつかせながら必死に弁解しようとする凪世の頭に若槻は無情にもチョップをくらわせ、黙らせた。
「…………つぅっっ!!」
どうやら…若槻の攻撃は見た目よりとっても痛かったらしい。
悶絶しながら瞳に涙を浮かべる凪世を横目に、若槻はとても良(い)い笑顔で俺に話しかける。
「凪世の好みなんかどうだっていいよね。それより奏にもう一人紹介したい人がいるんだ」
「もう一人…ですか?」
「うん、もう一人。真人と一緒に出かけ筈だからもう少しで帰ってくると思うんだけど…」
若干引きつった俺の言葉を気にせず、若槻は遅いなぁと呟きながら壁時計に目を見る。もう凪世の事は完全無視である。
ちなみに横目で凪世を見れば、いそいそとソファに戻り、やりかけであったのであろう書類にいそいそと手をつけていた。
さらにと思い、一年生ペアも見てみれば、凪世を見て笑っている垣本を仲原が必死になって止めようとしている。
(……………。)
この短時間で全校生徒の憧れである生徒会の実態を知ってしまった事に、悲しいやら呆れやら、何とも言い様が無い日向であった。
「っていうかぁ、若副会長?何で日向を呼んだの?もしかしてよっちゃんに関係ある事?」
先程の攻撃から若干回復したのか、目尻に涙を浮かべつつも凪世は声をあげる
「よっちゃん……?」
俺が呼ばれた理由に関係ありそうなよっちゃんとはどんな人物なのか、俺は凪世に聞こうと口を開いた。
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