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約束
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風紀委員長とミケ先輩が組んだら、いくら山河だとはいえ、勝ち目はない。
「ミケ先輩が勝った。」
「ミケと京谷なんて、死んでも敵に回したくないな。」
会長は、そう言ってため息をついた。
それは、限りなく同感だ。
今回は運動だったが、個人的にどんなことでも、あの3年生コンビは、敵に回したくない。
衛は、試合が終わるや否や、風紀委員長のところへ向かっていった。
「ん?志真。どこ行くんだ?」
「……少し、山河と話してきます。」
ミケ先輩とキラキラ集団が笑っているところには行かずに、体育館を出て行こうとしている山河を追いかけようとしたところ、会長に止められた。
出来れば、会長には見つからずに行きたかったのだけど……
会長は、一瞬怪訝そうな顔をしたが、何でもないような顔で、「そうか。」と言ってそれ以上は何も聞いてこなかった。
俺は、衛やミケ先輩たちキラキラ集団がいるところとは違う方へ向かった。
体育館を出て裏の人気のなさそうなところへ一直線に向かう。
「やっぱり、来たね。」
体育館の壁にもたれながら、タオルで汗を拭いてる赤髪がそこにはいた。
ピアスはつけていなかったが、片方だけ付いているので、もしかしたら、今付けている途中だったのかもしれない。
何にせよ、スポーツ中外していたことは褒めてやろう。
「やっぱりって何だよ。こんな人気がないところ。安田くん探してたぞ。」
「マジ?」
「どうでもいいけど……ありがとう。」
これは、借りを作った相手への感謝。
だけど、何だかムカつくので、顔を見ず小さい声で言った。
「どーいたしまして。」
山河は、もう一つのピアスを付け終わり、俺の方に近づいて来た。
俺は、何も言わずに山河の行動を目だけで追う。
「それより志真くん。約束忘れてないよね?」
顔が近い。
こいつは、いちいち顔が近い。
耳元に近づけて話さなくても、聞こえる。そんなに耳悪くない。
「忘れない。顔が近い。離れろ。」
「あー、怖いよ、その目。もう俺の前で隠す気ないでしょ?」
笑いながら離れていく。
やはりこいつ好きじゃない。
笑っているけど、笑ってない。口元は笑ってるけど、目は全く笑ってない。
何考えてるかわからない。
すると突然真面目な顔をした。
「明日、午後14時に、第二寮前で。」
それは、例の人と会うという約束の話だった。
誰に会わせられるかはわからない。
何にしても、明日は警戒していかないとまずい。
恨みを買ったやつかもしれないし。
「いいけど、集合場所を変更していいか?」
「どーぞ。」
「学園正面門にして。」
「……理由は?」
「病院に行くから。」
今日の頭に当たった件。
俺は、そこまで大したことはないと思っているけど、心配してくれてる人たちがいるのだから、形だけでも病院に行かないと、申し訳ない気がする。
それに、会長にもし、病院に行ったのか聞かれた時に、行かなかったら何故行かなかったか問い詰められる。
1日寮にいたなんて嘘、すぐにバレる。
「わかった。じゃあ、学園正面門に、車つけとくから。」
「少し離れたところにいろよ。休日とはいえ、誰かに見つかると面倒だ。」
「じゃあ、学園のすぐ近くのコンビニの駐車場にしようか?というか、病院まで迎えに行くよ?」
俺は、学園正面前に黒のベンツが停まっているところを想像した。
リムジンとかだったら、さらに目立つだろうな。
寮生活が基本のこの学園で、休日とはいえ、高そうな車が停まってたら、目立つか……
「じゃあ、近くのコンビニで。」
「りょーかい。」
病院まで迎えに来るのは嫌だが、コンビニなら別にいい。
高い車なのに、コンビニに停まらせるのは少し申し訳ない気がするが……
『生徒の皆さんに連絡です。ただいまから、閉会式を行います。速やかに、移動してください。繰り返します……』
そんな時に、ちょうど閉会式の予告放送が流れた。
ああ、卓球、バドミントンすべての競技が終了したんだな……
「志真くん。俺、表彰されるんでしょ?」
「その予定だけど?」
「俺、目立つようになるね。」
「……だったら?」
「俺の行動って、みんな目を向けるようになるなってね。」
そう言って笑った山河の目は、ちっとも笑ってない。
こいつは、正真正銘の危険人物だ。
こいつは、俺の方が危険だと言うけど、俺はこいつの方が危険だと思っている。
「仲良くしてね、志真くん。」
山河が俺に接触してきた理由は、よくわからない。
何もしなければ、俺と山河が接触することはほぼなかったことだろう。
安田くんがいたからというのは、きっと後付けの理由だ。
安田くんがいなくても、こいつは何らかの理由をつけて、きっと俺に接触してきたはずだ。
「俺は、この学園をぶっ壊したい。」
ほら。
生徒会と風紀委員会が杞憂してることは、俺じゃなくて、山河が起こすんだ。
「……なーんてね。冗談だよ。そんな怖い顔しないで。生徒会の役員に、そんなこと面と向かって言わないよ。」
「お前は、俺のことを生徒役員だと思ってるのか?」
「もちろん。」
何故かそう言って、山河はまた俺に近づいてきた。俺はやはり動かなかった。
目だけで追っていたが、その顔があまりに近付いてきたので、一歩下がろうとした時___
山河は俺の腰に手を回して、俺を自分の方に寄せてきた。
流石に焦った。
「なっ……お前、はなれ___」
それは一瞬の出来事。
抗議するためにあげた顔の目の前に、山河の顔があった。そして、抗議の言葉を述べようとした口を、口で塞がれてしまう。
唇は、触れたらすぐに離れた。
山河自身も、すぐに離れた。
俺は、何をやられたかわからず、呆然と立ち尽くしていた。
何故今のタイミングで?というか、これになんの意図がある?山河は安田くんが好きなんだろう?
疑問符が次々と浮かび上がる。
そんな内心焦っている俺に、山河はいつものように笑って言った。
「ねえ、志真くんも俺と似たようなものでしょ?この学園に来た理由なんて。」
学園をぶっ壊したい。
さっきの山河の言葉が頭をよぎる。
「……そんなわけない、だろ。」
「ふーん。まあ、いいや。ほら、志真くん。閉会式行くよ。」
そう言って、山河は歩き出した。
俺も遅れてその後をついていく。
山河とのキスには何も感じなかった。
というか、ビックリした。立ち尽くしたのは、驚いたから。
山河になんの感情も生まれない。
むしろ、嫌いなことに変わりない。
だけど、山河が言ったことは、半分正しかった。
俺は、この学園をぶっ壊したいという願望はない。
だけど、俺は、過去の自分を壊すために、この学園に来た。
それは、今はまだ誰にも言うつもりはない。
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