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クリスマスイブ
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今日はクリスマスイブ。
なのに、共働きの親は「仕事の後は二人でデートだから」と笑顔で出勤。
双子の姉の茗(メイ)は「今日夕飯は外で食べてくるね」と昼前に出掛けて行った。
高校二年の冬休み。
今日どころか明日も、何の予定もない僕。
昼食を1人で食べて、欲しい推理小説の新刊を買おうかと、駅前の本屋へ出かけた。
僕好みの本が多い店舗だから、目当ての新刊以外にも掘り出し物があるかもしれない。
新刊は、書店の二階に置いてある。目当ての本を手にして、何気に窓から外を見たら、僕のよく知る二人が目に写った。
思わず、手に持った本を胸に強く抱きしめる。
赤と緑が華やかに飾られている路上。二人は僕がいる書店のちょうど入口正面にいた。
僕がよく知る長身の美男とそれより20㎝ほど小柄な美少女。
どこから見ても非の打ち所のないカップル。
人混みの中でも一際目立つ二人を見て、僕は
「やっぱりそうなんだ」
と思った。
恋人には前々から「イブもクリスマスも都合が悪くて」と言われていた。だから、会う約束は取り付けなかったのだけど。
でも。
僕の素敵な恋人が、可愛いと評判の、そして僕自慢の双子の姉と、仲睦まじげに腕を組んで立ち話をしている姿。
それを見ていると、頭は冷えているのに心が痛む。
もしかしたら、彼は本当に僕のことを好きなのかもしれない。
もしかしたら、彼は本当は僕のことが好きじゃないのかもしれない。
常に心に抱えていた、矛盾する二つの思い。
でも今。
『彼は僕のことが好きではなかった』
が正解なのだとわかった。
僕の恋人は『彼氏』だ。
三つ年上の大学生二年生。
今から1年ちょっと前、彼が通う有名大学の大学祭に、姉と遊びに行った時に偶然彼と出会った。
長身で明るい色の髪で、整った顔の彼はいわゆる『イケメン』だ。
彼とは話が合わないだろうと思っていたのに、話しているうちに意外にも気が合って。その時にメールアドレス交換して、1ヶ月後には一緒に出掛けるようになった。そして半年後に彼から
『好きだ、付き合って欲しい』
と言われた。
男同士という後ろめたさがあって、茗にも誰にも相談できなくて、僕のどこが好きになったのか判らなくて。
しばらく1人で悶々と悩んで、ようやく導きだした結論は
『僕も好きです』
だった。
今日は、そんな彼と僕が付き合い始めてから初めてのクリスマスイブ、なんだけどなぁ。
「茗狙いで僕の友人になりたがったのはいたけど、わざわざ恋人になったケースは初めて」
溜め息が零れる。
幼い頃から可愛いくて、外交的で人気者の茗。そんな茗に近づくために、双子なのに茗とは似ても似つかない、地味な僕と友達になろうとした人達がいた。
でも、その『友人達』は家に遊びに来ると、僕を無視して茗に付きまとってばかりだった。茗は、そんな『友人達』に冷たい視線を浴びせ、面倒そうに対応し、果ては邪険に扱うようになった。
そんな光景を遠目で見ながら過ごした小学校時代。
中学に入るとさすがに僕も学習して、一歩友人達から遠ざかるようになった。そして誰も家に呼ばないことにした。
すると、面白いことに僕の友人は一気に減ってしまった。
今では友人と言える存在は片手で事足りる。
各務(カガミ) 浩輔(コウスケ)さんは「友人」ではなく僕の恋人という立場から茗に近づいた唯一の人。
ある意味強者だよね。
いつも僕を楽しませてくれて、僕に優しくしてくれて、甘やかしてくれて。茗に似ない僕と見つめあって、男の僕と手を繋いで、僕とキスをして。
よく僕に…男相手にそこまでできたと思う。
同時にそこまで茗が好きなんだとも思うけど。
僕とキス止まりの関係だったのも納得だ。
「付き合っていることは皆には内緒にしよう」と言われて、秘密の付き合いにしていたのも。
彼の本命は姉の茗、なんだし。
僕は二人の姿を眺めつつ、スマホを取り出して電話をかける。
下にいる各務さんがコートのポケットからスマホを出し、画面を眺めた。数秒後。
「潤(ジュン)、どうした?」
いつも耳元で聞く低くて穏やかでいてどこかで甘い、僕の好きな声。
ああ、やっぱり好きだなぁ、この声。
この声が、付き合おうと思ったきっかけだったっけ。
僕を呼ぶ声に、強く惹かれたんだ。
「潤?」
優しく問いかける声に、酔いしれる。
僕は各務さんのこと、好きです。
僕の傍にいてもいなくても。僕のことを好きじゃなくても。
各務さんが、好き。
「今日、会えませんか?」
僕の言葉にしばらくの沈黙。
身動きしない各務さんの隣で、茗が首を傾げて各務さんを見上げている。
「ごめん。前にも言った通り、今日と明日は無理なんだ」
うん。そうだよね。無理なことはわかってる。
今日も明日も茗と一緒に過ごすんでしょう?
「本当にごめん。今、訳があって話ができないんだ。また後で電話するから…」
「いえ、別に大丈夫です。僕のことは心配しないでください。知ってますから」
「えっ…」
「あの…茗のこと、よろしくお願いします」
「潤…っ!?」
慌てたような各務さんの声を無視して、僕は通話を切った。そして目を閉じて静かに長く息を吐く。
思ってたより緊張してたみたいだ。呼吸を整えて目を開ける。見下ろせば、各務さんはスマホをポケットに戻して茗と見つめ合っていた。
二言三言、茗と会話をして腕を組み直してから、二人は僕の視界から去って行く。
綺麗な二人。
お似合いな二人。
僕の大好きな二人。
だから。
二人が幸せになりますように。
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