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でも好きだから仕方ない(兎赤)
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「こんな所で寝てたら、いくらバカでも風邪引きますよ」
いつもは四限終業のチャイムが鳴ったら即、わざわざ二年の教室に飛び込んで昼飯に誘ってくる木兎さんが、今日に限って来なかった。
まあ三年生も受験だなんだと忙しい中でよく毎日来れたものだと常々思っていたから、来なくても取り分け不審がることはないのだが。
「え、赤葦の所にもいねぇの?」
あのバカで天才な先輩は、どうやら四限から姿を眩ませているらしい。
三年生達に心配される程深く長い溜息を吐いた後、向かった先は体育館の放送室。
教師陣ですら滅多に立ち入らないそこは、気分の高低差が激しい木兎さんお気に入りの精神統一部屋になっていた。
あんまり、人には教えていないらしいが。
「木兎さん。起きてるんでしょ?」
案の定、長椅子にごろりと横になっている木兎さんを発見した。長い足が収まりきらずにだらりと投げ出されている。
声を掛けてもぴくりともしないのだが、恐らくこれは狸寝入りだ。こういう時は決まって何らかのアクションを期待していて、それをしない限りは起きないだろう。
…正直、とても面倒くさい。
「起きてください。昼飯食いに行きましょ」
すぐ傍らに立って見下ろす。眩しかったのか目を覆うように腕を被せていて、表情までは伺えない。
「俺すごくお腹空いてるんですけど。このまま食いっぱぐれさせる気ですか」
そこで初めて、指がぴくりと動く。少しは俺に気を遣うか悩んだようだが、自分の欲望を優先させたらしい。
何が望みなのか。何となく察しがついているが、あまり甘やかしたくないという葛藤が過る。
「俺一人で食べても良いんですよ?」
言った途端、腕に隠れきらない口元が、きゅっと結ばれるのが見えた。
(…子供か。)
毎度思っていることだが、本当に身体だけ大きい小学生を相手にしているようだ。
しかし放置して放課後の部活の時まで根に持たれたら、他の部員からジト目で見られるのは自分の方だ。
「木兎さん。」
努めて優しい声を心掛ける。が、そろそろ堪えていた溜め息が抑えられない。
「…光太郎さん。」
「ん、なに、あかーし。」
にやり顔で、覆っていた腕を解く。名前を呼んでやっただけなのに。にやにやが止まらないらしい緩みきった顔が憎い。
「何がそんなに楽しいのか分かりません…」
「お?教えてやろうか?」
「訂正します。分かりたくありません」
「遠慮すんなー!」
呆れるのとお腹空いたのとで付き合いきれず教室に戻ろうと背を向けた。瞬間、
がばっと背後から強い衝撃を受けて足元がふらつく。
「っ…抱き着かないで下さい。重いです」
「赤葦が冷たいから!」
「俺はお腹空いたんですってば。ほら、さっさと帰りますよ」
「あ、待って待って!」
まだ何かあるのかと木兎さんの方に首だけ向けた、刹那に
「んっ…」
「お目覚めのちゅー」
ごちそうさまでしたーとへらへら笑いながら、呆気に取られた俺を置いて一人でさっさと出て行った。
「…んのバカ木兎…」
抑えに抑えていた溜め息が、肺の底まで絞りきるように長くながーく続く。
俺の苦労は、まだ当分続きそうだ。
fin.
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