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156.✩疲れただけ
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✩✩✩✩
桜さんから楓さんのお見合いの話を聞いてから、俺の気分は下がりっぱなしで買い物どころじゃなかった。桜さんもその原因を分かっていたし、『そろそろ帰ろうか』と言ってくれた言葉に甘えて、結局予定よりも早く帰ってきてしまった。
エレベーターの中で桜さんがしゅんとして『ごめんね、アサくん』と謝ってきたけど、俺はお見合いのことを知れてよかったと思う。
ただ、楓さんの口から聞きたかったけど……。
あんなことを話されて楓さんにすごく会いたかった。……でも、心のどこかでは会いたくなかった。
楓さんもお見合いの話は知っているらしい。だけど、俺には話してくれなかった。それって……俺には関係ないと思われてるってことだろう……。そう考えると悲しくなった。
「ただいま」
「……ただいま……」
桜さんが部屋の奥まで届くように言うと、ぱたぱたと足音が聞こえてきた。エプロンを身につけた楓さんが出迎えてくれたけど、目を合わせることができなかった。
「おかえり。早かったね」
「はしゃぎすぎて疲れちゃったから、早く帰ってきたの。満足もしたしね」
「疲れたのは桜姉じゃなくて旭じゃないの?どうせ連れ回したんでしょ。旭、どうだった?」
「…………あ、うん、楽しかったよ」
桜さんと話しながら前を歩く楓さんにそう問われたけど、お見合いのことを考えていたら反応が遅れた。それを訝しく思った楓さんが、足を止めて顔を覗き込んできた。
「旭、どうしたの?」
「え?……あ……ちょっと疲れただけだよ?」
楓さんに手を掴まれたことで無意識に手を襟足に伸ばそうとしていたことに気づいて、慌てて手を引っ込める。嘘は言ってない。精神的にだけど、疲れたのは本当だし………。
「……そう、お疲れ様。もう少しで夕飯できるから、買ってきた物を片付けておいで。ほら、桜姉も」
「……分かった」
「は〜い」
桜さんがいたからかもしれないけど、楓さんにしては踏み込んで来なかったな……、と今度はこっちが不思議に思った。いつもなら全部言わされるのに。
だけど、桜さんに続いて部屋に行こうとしたら楓さんに引き止められて、「あとで、話」と耳元で囁かれた。
ああ、ちゃんと聞いてくれるんだ、って嬉しく思ってしまった俺はそろそろやばいのかもしれない。
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