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183.✧元通り
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✧✧✧✧
翌朝、俺は学校へ行く旭と一緒に家を出て会社に来ていた。データの提出と例のユニットのレコーディング、あと来年にいくつか入っている海外での仕事についての打ち合わせをするためだ。
旭を一人で家に残していくのが心配で、俺がいない間どうしようか考えながら会社が入っているビルへと向かう。
行き交う人たちはみんなマフラーやコートに顔を埋めて寒そうだ。かく言う俺も今日は珍しくタートルネック。普通に寒いし、旭につけられた痕を隠すためでもあるんだけど…。
今日も夕方から雪が降るらしいし、旭より早く帰って部屋をあたたかくしておかないとな。
そんな事を考えながらエントランスの受付嬢に挨拶をしてエレベーターを待っていると、隣に人が並んだ。
「………楓?」
その聞き慣れた声に横を見ると、スーツ姿の静輝がいた。偶然居合わせたようで静輝も目を丸くしていたけど、そのうちいつものすまし顔に戻った。
「おはよう」
「……おはよう……」
顔を合わせるのは俺が家出して静輝の家に行ったとき以来で、まさか会うとは思ってなかったから少しどぎまぎしていると鼻で笑われた。
エレベーターが到着して二人で乗り込む。他に乗っている人はいなくて密室に二人きりという微妙な空間だ。
「それから、どうよ?」
「……どうって?」
「和泉旭とは進展したのか?」
「ああ……、おかげさまで元通りです」
そういう関係だった静輝になんて言おうか一瞬迷ったけど、どうせ全部知ってるんだから濁しても意味ないだろう。
「ふーん。…………」
「……何ですか」
自分から聞いてきたのにつまらなそうに返されてむっとすると、静輝はふっと笑って俺の髪をわしゃわしゃと掻き乱した。
「べっつにー?ちょっと妬いただけ」
「…………」
妬いた、なんて言い出すなんて一体どうしたんだろうか。俺が旭にぞっこんだということは静輝も知ってるはずだ。……静輝は旭のことをどう思っているんだろう。
今はもう静輝とは体の関係を持っていないけど、俺にとっては心を許せて信頼できる人で、静輝も俺を拒まずに懐に入れてくれているし、学生時代と変わらず関係は良好だ。だけどもしかしたら、そう思ってるのは俺だけで、静輝は違うのかもしれない。
少なからず恋愛感情に近いものをお互いに感じていたわけだから、さばさばした性格の静輝でもやっぱり心の内は複雑だったりするんだろうか……。いや、それは絶対にないか。
「なあ、今度会わせてよ?」
「………はあ?旭に?なんでまた……」
「いや〜なんかさ、お前の話聞いてると会ってみたいなー、って。ここまでお前がご執心になってる相手ってどんなやつなのか、すげぇ気になるんだよねぇ」
「……旭がいいって言うかどうか、分かんないけど……」
「まあ、気が向いた時にでも聞いてみてよ。……それじゃ、また」
先に目的の階に着いた静輝は、最後に俺の頭をひと撫でしてから降りていった。
俺の話のどのポイントで旭に興味が湧いたんだろうか……。静輝が会ってみたいって言ってたよ、なんて伝えたら旭はどんな反応をするかな。嫌がるか、会うのか……。旭も複雑だろうな。
俺としては二人が仲良くなってくれたならこの上ないんだけど。そう簡単にいくとは思わない。
伝えるか伝えないかは旭の様子次第だな、と結論づけて、フロアに着いたエレベーターから降りた。
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