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四話
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side:更科
コーヒーはそこまで好きじゃない
かと言って嫌いでもない
無性に飲みたくなることがたまにあるくらいで
毎日飲んではいなかった
毎日飲んでいないコーヒーの味は
どれも一緒に感じていた
だけどある人が淹れてくれるコーヒーは
どれも一緒に感じていたコーヒーよりも
言っちゃなんだが不味くて
でもそれは最初だけで
回数を重ねるごとに味は変化していた
今日も俺が席を外した隙に
こっそり置かれたコーヒーを啜る
特別に美味い訳じゃない
けれど今まで飲んできたコーヒーよりも
俺好みの味をしていた
そのコーヒーを淹れてくれた
矢口改め、矢口先生は
斜め向かいのデスクにて教科書を読んでいる
俺の視線に気づいたのか
ふと矢口先生は教科書から目を離した
その時、俺と目が合う
瞬間的に矢口先生はびくっと肩を震わせ
教科書で顔をぱっと隠した
しばらくすると顔全体を覆っていた
教科書をゆっくりと下げ
俺の顔を少し見て頭を下げた
俺もコーヒーのコップを少し持ち上げ
感謝の気持ちを込め頭を下げた
すると矢口先生は
再び教科書で顔全体を覆ってしまい
しばらくその状態から動かなかった
そんな矢口先生を見て
俺は思わずクスリと笑ってしまった
コーヒーを淹れてくれるようになっても
矢口先生は俺に声をかけてこなかった
俺から話しかけても返事は相変わらず
コーヒーを淹れてくれるってことは
嫌われた訳ではないのだろう
むしろ嫌ってたのは俺の方なのにな
見回りも戸締まりも終わり
時刻は十一時を回ってしまっていた
職員室に戻れば皆帰ったのか
誰一人いなかった
俺も帰ろうと荷物を取りに
自分の机に向かう
その時気づいた
扉からは死角になってわからなかったが
自分の席からは机に伏せて眠る
矢口先生の姿が見えた
前までの俺だったらきっと起こさず
そのまま帰っただろう
しかし俺は小さく息を吐くと
「矢口先生」という声と共に矢口先生の肩を揺すぶった
数回揺すぶると矢口先生がゆっくりと目を開ける
「んっ……あれ…」
体を起こし辺りを見渡す矢口先生
そして不意に時計が目に入り
状況をやっと理解したのか
勢いよく立ち上がった
「えっ!?十一時!!!!?終電っ…!!!!」
矢口先生はあたふたと荷物を鞄に詰める
今の矢口先生には俺は見えてないようだ
しかししばらくすると俺に気づいたのか
動きをぴたっと止めた
「す、すみませんっ…」
そう言うと矢口先生は恥ずかしそうに
鞄を抱え俯いた
「いえ、終電、間に合いますか?」
「は、走れば…たぶん…」
「じゃあ送りますよ」
思いもしてなかった言葉に
矢口先生は「え…」と目を丸くした
「どうぞ」と女をエスコートするように
車の助手席のドアを開ければ
矢口先生は首を横に振った
「う、後ろで…いいです…」
「後部座席には荷物がありまして…
助手席じゃ嫌ですか?」
「いえっ!!そういうわけじゃっ…」
鞄を胸に抱き頭を小さく下げ
矢口先生は助手席へと乗り込む
俺は助手席のドアを閉め
運転席へ乗り込んだ
「矢口先生の家はどこら辺ですか?」
「え、とっ…ОО駅周辺です…」
「わかりました」
案外遠いところから来てるんだな
そう思いながらエンジンをかける
矢口先生は相変わらず俯いていた
矢口先生が言ってた駅までは
車で三十分ほどかかる
車が動き出して数分たつが
いまだに会話はゼロ
さすがに矢口先生も気まずいと感じたのか
「あのっ…」と口を開いた
「ありがとうございます…色々…」
「いえ、珍しいですね
矢口先生が居眠りだなんて」
「…ちょっと…最近寝れてなかったので…」
「そうなんですか…
無理しないでくださいね」
「っ…ありがとうございます…」
会話はそこで途切れ再び沈黙
車内に響くは車の走る音のみ
人通りも車通りもない信号で止まり
そっと矢口先生を見れば
矢口先生も俺を見ていたようで
ばちっと目が合った
目が合った瞬間すぐに顔をそらされたが
いつものことだから気にしない
目線を信号に戻して青になるのを待った
まだ避けられてるか…
そう心の中で呟いた時
信号の色が赤から青へと変わった
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