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確信
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翌日
龍希が仕事に出たのを見計らうと、
けんちゃんはいよいよある計画を実行する事にした。
いつもならのんびりしてから適当に着替えて
自らが経営するカフェへと出勤するのだが、
今日はカフェを休みにしていた。
服装もお休み仕様だ。
けんちゃんは、あのような口調で話はするが、
見た目は男性である。爪や唇、睫や目尻など、お手入れやお洒落としての薄い化粧はするが、
女装はしない。
今日も、やや細身のパンツに、タンクトップ。
その上から半袖のシャツを羽織ると、
シルバーのネックレスをする。
決して線の細い女性らしい物ではない、男性用のそれだ。
ペンダントトップに付けられた少しゴツめの天然石が主張をしている。
火の元の確認を手早くすると、
ふ、と考え込んでから、靴箱にしまわれていたお気に入りの靴、ビルケンシュトックのザルツブルクタイプを出してきて履いてみる。
そして、満足そうに頷くとそのまま家を後にした。
そんな彼が向かったのは、
他でもない、貴仁の家であった。
昨日の会話は、決して初めての内容ではなかった。
龍希がけんちゃんの家に来てから、似た話は幾度としていた。
何回話しても、龍希の踏ん切りは付かないままだったが、どう考えても龍希はこのまま終わりに向かうより、
あと何回傷つこうと、自分に嘘をつこうと、
貴仁の元に居れた方が良いはず。
けんちゃんは、そう確信していたのだ。
それは、龍希が貴仁にもう二度と会えないと思い、生きていた8年間を知っているからだった。
ずっと、側で見てきた。
あんな、生きているのかどうなのかも全てどうでも良い。仕事さえこなせて居ればそれが生きている証しだと言わんばかりに、
無茶な恋をして、無茶なスケジュールで遊んで、無茶なスケジュールで仕事をする。
そんな生き方を、この先ずっと龍希がするくらいならば、
どれだけ辛かろうと、絶対に貴仁の近くに居れる方が良いに決まっている。
龍希のこれからの涙の量を考えた時、
それが一滴でも少ない方を。
笑顔の数を数えた時、
それが1秒でも多い方を……。
その結果がこれだと確信したのだ。
けんちゃんは、龍希が貴仁の家に出入りしていた頃に2回くらい貴仁の顔を見た事が有る。
どちらも龍希に急な用事で会いに来て、外で軽い立ち話をしていたタイミングでチラリと顔を合わせただけだったので、
1度は軽い会釈程度で終わり、
もう1度は本当にチラリと見えた程度で終わったので、しっかりとした挨拶もしていない。
きっとその時に後で龍希が自分の事は何かしら話してはいるだろうが、
殆ど初めましてだ。
貴仁の家に着き、
玄関まで行くと、
「新井田」と書かれた表札の前で、小さく深呼吸をした。
そして、インターホンを鳴らす。
すると、すぐに「…はい、」と声が聞こえた。
貴仁のものである。
「あ、こんにちは、雨崎と申します。龍ちゃ……え、と。日尾君の友人です。」
とりあえず気を使ったのか、いつもの口調は封印して、インターホン越しに挨拶をした。
ここで、龍希はいません。だけで終わってしまったらどうやって食い止めようかと言う不安が有ったが、
しばしの無言の後、「…お待ちください」と言う言葉でインターホンは途切れたので、
小さく胸を撫で下ろした。
数秒という早さで玄関は開いた。
昔ながらのガラガラと横にスライドするそれの先に、無精髭に、寝癖の目立つ、お洒落には無頓着そうな姿ではあるものの、どこかシャンとした小綺麗さの有る1人の男が現れた。
そして、けんちゃんを見るや否や、あ。と声を出す。
「あーと……えー…。」
けんちゃんの顔を見て、必死に記憶を手繰っているいるような声を出し、少し考え、
あ!と、声を出し続けた。
「…えーと、けんちゃんさん…ですよね?」
ちゃん の後に、さん が付いた妙に、
思わず目を丸くしたけんちゃんだったが、
はい!と笑顔を携えながら、1つ大きくお辞儀をし、
「こんにちは!雨崎健一と言います!突然申し訳ありません!……名前、知ってくださってたんですね。ありがとうございます。」
と。挨拶をした。
「…あぁ、以前、家の前で龍希とお話をされてましたよね、その時に、龍希に聞きました。…すごく、良い人で、大親友だと……。」
その言葉に、内心「あら、まぁ。」と喜んだけんちゃんだが、まだまだガマンよ!と、
口調に注意をしたまま、告げた。
「…そうでしたか、あの、殆ど初対面の者が突然で、申し訳ありませんが、少しお話。よろしいですか?」
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