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温もり/安らぎ(112頁)
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「……いただき……ます」
兄が作ったのは野菜のたっぷり入ったミネストローネだった。
火が通ってとろとろになったトマト、ジャガイモ、キャベツ。
細かく刻んであるセロリとたまねぎ。
それから、ひよこ豆。
鮮やかなオレンジ色の水面に、それらが宝石のように浮かび上がっている。
「はいっ。いただきます!」
兄と二人きりの食事なんて、いつぶりだろう。
タイミングがあっても軽い外食ぐらい。こうやって手料理を食べさせてもらう機会は、なかなかなくなってしまった。
そしてきっと、この先は――。
スープを流し込むと、トマトの酸味がツンと胸にしみた。
口の中ではひよこ豆がほろほろとほぐれて、空っぽだった腹にやさしく落ちていく。
思わず、ため息がもれてしまう。
「うまいか?」
「……ん」
――“昔作ってくれたときより、ずっとずっと美味しい。”
その一言が言えなかった。
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