アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
お酒_1
-
取り出された日本酒は僕が部屋で集めている小瓶のサイズではなくて、手に取った事も無い一升瓶で。優也さんが持ち運ぶとなんだか強い男を連想させる。
味見に、とコップに一口もらうとそれは程よく冷えていてお風呂上がりの体温に心地良く収まった。
すっかり遅くなってしまったようなので、流石にお腹がすいた。とりあえず体にぶらさげたままだったシャツとズボンを身につけてキッチンにお邪魔してみる。
広いシンクの隣にどうやって使うかわからない機械達が並ぶ。一周見渡すと、壁に小鍋とフライパンが並んでいてほっとした。これで、フライパンまで使い方のわからない形だったら笑ってしまう。
空っぽに近い胃袋にお酒を入れるのは危険だと思い立派な冷蔵庫を開ける。
中身は僕の部屋と変わらないくらいガランとしていた。
こんな所は意外と普通の男の人なんだな。
仕方ない玉子焼でも作るか。賞味期限ギリギリだけど焼けば平気だろう。
野菜室に転がっていたにんじんを炒めてキンピラ風にして、じゃがいもを粉ふき芋にして鰹節であえた。簡単すぎるけど、何もないよりマシかな。
腰を襲う痛みと戦いながら1人で勝手にキッチンを使わせてもらっている間中、優也さんはキッチンをうろうろしながら僕の腰をわざわざ触って日本酒を呑んでいた。
体のあちこちが痛いのは、僕ひとりのせいじゃないんだけど。
文句の一つも言いたかったけど、あんまり言い返しても嫌な奴だと思われそうで、言えなかった。
流れは変わってしまったけど、食べたら帰ろう。
そう誓ってソファーの前にあるガラスの机に運ぶ。
「いつでも嫁にいけるようだな。」
にやりと少し意地悪く笑うと、卵焼きをつかんで口に放り込む。
そのまま、2切れ3切れと無言で食べているのを見ていると大きな動物に見えた。
「そんなにお腹すいてたんですか」
お酒しかいらない人なのかと思ったのに。あっという間に卵焼きを平らげられてしまって驚く。
「うまいな。」
さっき意地悪く笑った人とはまるで違う満足気な微笑み。
人の笑い方って、沢山あるんだなぁ。と妙なところで感心したりして。
横目で見ながら、手料理を褒められるのも悪くないなんて思いながら、日本酒を煽る。
それは昼間呑んだものとはまた違って、どっしり甘いタイプで、嫌いじゃない味。
よく冷えているから喉をするする通って胃に落ちた瞬間に熱くなる。
そんなに強い体質ではないから、すぐに頬が赤くなるのがわかった。
卵焼き、甘くしなくて正解だったみたいだな。
昼間とは違い、ラフな服装に着替えて髪を下ろした優也さんは少しだけ幼く見えて、さっきまでとは纏う空気まで違う。
ついさっきまで獣みたいだったあの光はすっかり消えて…
いや、ケダモノだったのは僕のほうか。
一人で赤面しながらぼんやりそんな事を考えていると、優也さんが楽しそうに話しかける。
「愁、賭けしないか?」
「賭け、ですか?」
2人でできる賭け事、なんだろう。トランプ?ジェンガ?花札とか。
「ルールを知っているゲームが少ないかもしれません」
僕ができるのは、ババ抜きくらいかもしれない。冗談じゃなく。
「俺が勝ったら、愁はここに引っ越してくる」
まだそれを引っ張るの、この人は。
「見かけに寄らず、冗談が好きなんですね。女性相手ならセクハラです。ストーカーの上に脅してくるなんて。」
ここは笑ってかわすところだろう。たぶん。
だいたい、初めから僕の事を知っていたなんて驚きだ。
「見かけに寄らず、気が強いんだな。愁」
お、なんか、気に障る言い方。
「じゃあ僕が勝ったら、これください。」
背中にあたるふかふかのクッションをさして、すりすりする。
手触りと寄りかかると体にくっついてくるような感触がさっきから気に入っていた。
「じゃあ勝負がつくまで、それはお預けだ」
そう言われて取り上げられる。
子供みたいなその態度に、ついつい笑って勝負にのってしまったのだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
11 / 155